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顕彰

第54回毎日芸術賞(12年度)の受賞者

 第54回毎日芸術賞(12年度)の受賞者が決まりました。

 毎日芸術賞はあらゆる芸術分野を対象に、特に優れた成果を上げた個人・団体に贈る賞です。同賞演劇部門の寄託賞である千田是也賞は、目覚ましい活躍をした気鋭の演出家を表彰します。


贈呈式後に記念撮影する前列左から歌手の谷村新司さん、画家の辰野登恵子さん、歌舞伎俳優の坂東三津五郎さん、テレビマンユニオンの加藤義人社長、後列左から歌人の高野公彦さん、写真家の荒木経惟さん、演出家の伊藤大さん、作家の堀江敏幸さん=東京都港区で2013年1月22日、丸山博撮影
 

(敬称略、50音順)
 ・高野公彦(きみひこ)(歌人)歌集「河骨川(こうほねがわ)」
 ・辰野登恵子(とえこ)(画家)「与えられた形象」展および「辰野登恵子秋の有隣荘特別公開」
 ・谷村新司(歌手)アルバム「NINE」と日中友好コンサートの成果、および震災遺児支援曲「風の子守歌」の作詞など
 ・テレビマンユニオン(番組制作会社)ドキュメンタリードラマ「開拓者たち」の制作をはじめとする映像文化への長年の貢献
 ・坂東三津五郎(歌舞伎俳優)「金閣寺」「芭蕉通夜舟」および「塩原多助一代記」での演技
 ◇特別賞
 ・荒木経惟(のぶよし)(写真家)「荒木経惟写真集展 アラーキー」で示した「写真集文化」の確立
 ◇第15回千田是也賞
 ・伊藤大(まさる)(演出家)「THAT FACE~その顔」の演出


●歌人・高野公彦さん=歌集「河骨川」(砂子屋書房)

 ◇時代を衝く孤独

 北原白秋・宮柊二(しゅうじ)の作風をくむ歌人で、著者の第十三歌集。題名の「河骨川(こうほねがわ)」は、かつて高野辰之が作詞した「春の小川」のモデルとなった川。東京の渋谷区を流れるが、暗渠(あんきょ)となって見えない。
・夕茜(ゆうあかね)あはき渋谷のなかぞらを河骨川はさらさら行くよ
 川は失われたが、さわやかに地下に流れる水音を幻聴する。滅びたものを愛惜する想像力が基調となっている。
・とびとびに自販機の灯の点(とも)りゐて人影のなき墓地への通り
・細身なる乙女が増えてビョー的な足細乙女(あしぼそおとめ)夜の街を来る それとともに爛熟(らんじゅく)した都市の痛みを抉(えぐ)る。濫造(らんぞう)された自販機や、細い美脚を競う世相を呪い、諧謔(かいぎゃく)を弄(ろう)する。
・をりふしに矢印ありて矢印に従ひ都市をわれ流れゆく
 はしなくも順応を強いられる、物憂い時代の孤独感が主題となっている。伝統詩が現況の諸矛盾を衝(つ)く。(篠弘)

●画家・辰野登恵子さん=「与えられた形象」展、「辰野登恵子 秋の有隣荘特別公開」

 ◇芳醇な構成と色彩

 昨年開催された辰野登恵子の回顧展は、ごく初期の実験的試みを経て確立された独自の絵画世界を存分に展開していて、圧巻であった。濃密な色彩対比と隙(すき)のない画面構成によるその芳醇(ほうじゅん)な世界は、具象・抽象の区分を超えて「絵画」そのものの持つ力を直接見る者に強く感じさせた。その作品には、しばしば円筒形を不規則に積み重ねたような柱状の形態や、あるいは棚か梯子(はしご)を思わせるかたちが登場するが、それらは、三次元空間の幻影を漂わせながら、画面構造を支える重要な要素となっている。近年の作品では、その色彩表現にいっそうの艶(つや)やかさがうかがわれると同時に、多くの版画作品において、今後の新しい展開を予測させる大胆な試みを見せる。現在最も脂の乗りきった、充実した活動を続けている注目すべき画家の一人と言ってよいであろう。(高階秀爾)

●歌手・谷村新司さん=アルバム「NINE」と日中友好コンサートの成果、および震災遺児支援曲「風の子守歌」の作詞など

 ◇Jポップ、心の懸け橋に

 デビュー以来40年間、常に現役の第一線でミュージックシーンを走り続けている谷村新司は「アリス」でナンバーワンを極めた後、ソロアーティストとしてはオンリーワンの世界を確立。そして今、堀内孝雄、石井竜也、加山雄三、岩崎宏美、平原綾香などすてきな音楽仲間たちと音楽を楽しむことでたくさんの人々の心を癒やしてくれている。そんな和を尊ぶ谷村だけに、悪化した日中関係に胸を痛めている。
 1981年にアリスのメンバーとして北京で単独公演をして以来、彼は日中の懸け橋的ミュージシャンとして活動を続けている。だからこそ、「政治や経済が駄目になっても、最後の砦(とりで)は文化だと思っている」という谷村の言葉は重いのだ。
 フォークからスタートしてニューミュージックを確立し、Jポップを"文化"にまで高めた谷村の功績には大きなものがある。そこを高く評価したい。(音楽評論家・富澤一誠)

●番組制作会社・テレビマンユニオン(ドキュメンタリードラマ「開拓者たち」の制作をはじめとする映像文化への長年の貢献)

 ◇ユニークな創造集団

 テレビ局の体質にあきたらない制作現場の有志(萩元晴彦、村木良彦、今野勉など二十数人)が1970年、TBSを離れて作った独立プロダクション。「テレビの側に選ばれた人間が逆にテレビを選び返すことを《表現》の軸として」(村木)スタートさせた創造集団では、ユニークな発想を大事にする。
 各人がすべて株主であり、請負でも月給制でもなく、創造力に対応した報酬と制作者の諸権利を保証した独特な経営方針にも注目したい。「遠くへ行きたい」「オーケストラがやってきた」「世界・ふしぎ発見!」など知的娯楽作品の分野を確立、ドラマ「海は甦(よみが)える」「波の盆」など受賞作品も目白押しだ。
 昨年は「開拓者たち」(NHK)が大反響を呼んだ。満蒙開拓団が歩んだ苛烈な実話に基づき、国策の犠牲になった家族の悲劇を描いた連続ドラマの力作。テレビ60年に際し、高く評価したい。(放送コラムニスト・松尾羊一)

 

●演劇・邦舞部門 歌舞伎俳優・坂東三津五郎さん=「金閣寺」「芭蕉通夜舟」および「塩原多助一代記」での演技

 ◇端麗に役者の王道行く

 坂東三津五郎の2012年の歩みは目ざましいものであった。以前からの端正な演技にうるおいを帯びてきたので、端麗なという形容で評したこともあったが、ここにきて美しさと自在な動きにユーモアと奥深さまで加わると、どんな役に出合っても「行くとして可ならざるはなし」と言いたくなる。
 たとえば正月には、古典の「金閣寺」で、天下を狙う大悪党・松永大膳を、8月には、井上ひさし作の現代劇「芭蕉通夜舟」で、19歳から50歳まで、諧謔(かいぎゃく)の人から俳聖と呼ばれるまでの松尾芭蕉を、10月には、円朝の人情噺(ばなし)を題材にした「塩原多助一代記」で、愛馬・青との別れの場などで涙をしぼらせる純朴な多助と小悪党・道連れ小平の二役を、鮮やかに演じてみせたのである。
 同学年で親友だった勘三郎に先立たれ、彼がになう責務はますます重くなるはずだが、役者の王道を歩んできた彼はりっぱに果たしてくれるだろう。(小田島雄志)

●特別賞 写真家・荒木経惟さん=「荒木経惟写真集展 アラーキー」で示した「写真集文化」の確立

 ◇身近な関係綴る「私写真」

 荒木経惟のエロス(生、性)とタナトス(死)の領域を自在に往還する作品世界は多面的な顔を持つ。写真家としての活動だけでなく、独特の饒舌(じょうぜつ)体の文章、書やドローイングなどにも才能を発揮してきた。だが、とりわけ最愛の妻、陽子の生と死を見つめた「センチメンタルな旅・冬の旅」(91年)など、「私写真」と称される、身近な他者との個人的な関係のあり方を細やかに綴(つづ)っていく作品で評価を高めた。90年代以降には、ウィーン、ロンドン、パリなどヨーロッパ各地でも展覧会が開催され、日本の現代写真を代表する一人と見なされている。12年にIZU PHOTO MUSEUMで開催された「荒木経惟写真集展 アラーキー」では、これまで彼が刊行してきた450冊を超える著作が展示され、あらためてそのエネルギッシュな活動ぶりに注目が集まった。そのキャリアと実力は、まさに毎日芸術賞特別賞にふさわしいものといえる。(写真評論家・飯沢耕太郎)

●千田是也賞 演出家・伊藤大さん=「THAT FACE~その顔」の演出

 ◇出演者の魅力引き出す

 伊藤大氏が所属する青年座の公演「THAT FACE~その顔」(ポリー・ステナム作、小田島恒志・則子翻訳)で受賞した。
 氏は新進というより今や中堅ともいうべき存在で、1997年の「ジャンナ」(アレクサンドル・ガーリン作)や2002年の「ハロルドとモード」(コリン・ヒギンズ作)、そして08年の「ジョバンニの父への旅」(別役実作)といった秀作を世に送った実績がある。いずれも青年座の公演で、この劇団にとってはすでに戦力の一画を占める演出家になっている。だから今さらという声があっても不思議ではない。が、すさまじいまでの家庭崩壊をリアルに描いた英国の若手女性劇作家の戯曲を手掛け、出演者全員の秘められた魅力をフルに引き出した演出力は、前記のごとき積み重ねがあればこそで、改めて評価に値すると考える。今後の一層の活躍を期待したい。(大笹吉雄)


◆選考委員(敬称略)

 ◇毎日芸術賞
 礒山雅(音楽評論家)、小田島雄志(演劇評論家)、黒井千次(作家)、篠弘(歌人)、高階秀爾(美術評論家)、平岩弓枝(作家)、岸井成格(毎日新聞社主筆)
 ◇千田是也賞
 大笹吉雄(演劇評論家)、水落潔(同)