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顕彰

第55回毎日芸術賞(13年度)の受賞者

 第55回(2013年度)毎日芸術賞(特別協賛・信越化学工業株式会社)の受賞者が決まりました。

贈呈式後、記念写真に納まる(左から)永六輔さん、平幹二朗さん、佐伯一麦さん、長田弘さん、青木野枝さん、小川絵梨子さん=東京都内のホテルで2014年1月29日午後3時5分、竹内幹撮影
 

 ・青木野枝(彫刻)個展「青木野枝 ふりそそぐものたち」(愛知・豊田市美術館、名古屋市美術館)
 ・佐伯一麦(かずみ)(小説)小説「還れぬ家」(新潮社)
 ・長田弘(詩)詩集「奇跡―ミラクル―」(みすず書房)
 ・平幹二朗(演劇)舞台「鹿鳴館」「唐版 滝の白糸」での演技

 ◇特別賞
 ・永六輔(放送)旅番組「遠くへ行きたい」など、長年にわたるテレビ・ラジオへの貢献

 ◇第16回千田是也賞
 ・小川絵梨子(演出)舞台「ピローマン」「帰郷―The Homecoming―」「OPUS/作品」の演出

 毎日芸術賞はあらゆる芸術分野を対象に、特に優れた成果を上げた個人・団体に贈る賞です。同賞演劇部門の寄託賞である千田是也賞は、気鋭の演出家を表彰します。今回の受賞者の業績を紹介します。

 ◆美術1部門(絵画・彫刻・デザイン) 青木野枝さん=個展「青木野枝 ふりそそぐものたち」(愛知・豊田市美術館、名古屋市美術館)

 ◇卓抜した構成力

 一昨年秋からの青木野枝の活動は、目を見はらせる達成を示していた。愛知県のふたつの美術館における大がかりな展覧会をはじめ、岡山県倉敷市の有隣荘での個展、トリエンナーレやグループ展への参加などが生み出した成果は、他に例を見ない、独自の発想と豊かな感性をよく物語っている。

 作品の素材は、重く、硬い武骨な鉄である。それが大小さまざまの輪のつながりとなって軽やかに舞う時、あるいは細い樹枝に流れ落ちる水滴のように球となって連なる時、そこに爽やかな風が流れ、透明な光が溢(あふ)れる。

 そればかりでなく、作品は室内であれ屋外であれ、それが置かれた場所の空間を大きく変容させる力を持っている。青木野枝は、その卓抜な構成力によって、光と空間の詩を歌い上げているのである。現在最も脂の乗った優れた芸術家と言ってよいだろう。(高階秀爾)

 ◆文学1部門(小説・評論) 佐伯一麦さん=小説「還れぬ家」(新潮社)

 ◇新しい器、探し当て

 小説の主人公であり語り手でもある<私>の言葉を辿(たど)るうち、一息に作品を読み終わっている。そして認知症になった父親の実情と自分の生家に対する屈折した思いとを、父が生きている間に同時進行の形で書き進めたい、との願いがこの作品を生み出したことを知る。仙台での少年時代、大学進学を拒んで家出同然に上京し、電気工となっての生活を経て、三十を過ぎてから故郷へ戻るが、それは和解ではない。再婚した妻とともに面倒をみる両親との間には蟠(わだかま)りが残っている。やがて父は死去、東日本大震災が発生する。その結果、家へ帰ることができなくなった人々を見て、自分のことばかりにこだわり続ける姿勢に自省の念を抱く。従来の私小説にはないものが隠れている。日本近代文学の歩んで来た道につながりながら、どこかでそれをはみ出し、そこに収まりきれぬ生の姿を新しい器に盛ろうとする現代文学の一篇(いっぺん)である。(黒井千次)
 
 ◆文学2部門(詩・短歌・俳句) 長田弘さん=詩集「奇跡―ミラクル―」(みすず書房)

 ◇現代詩、広がり求め

 この詩集は、東日本大震災前後に書かれた30編の詩を収める。時代に対する批評眼を潜在させながら、自己の内面を抉(えぐ)り、平明でやわらかな詩性が一貫する。詩の本質を問う詩集。被災者をいとおしむ「涙の日―レクイエム」の末尾から引く。

 絶望を語ることは、誰もしなかった。
 けれども、女も、男も、
 大声で笑うことをしなくなった。
 風巻く冬が去って、
 陽春が、いつものように、
 めぐり、めぐり来ても。

 言葉を失い、笑い声が消えた慟哭(どうこく)は深い。陽春が巡ってきても、すぐには救済されないと詠む。人間と自然を対応させたところに特徴があり、早く人びとが美しい風土を慈しむという心情の回復をねがうかのようだ。

 魅力ある言葉によって、人間の深処(しんしょ)からの声を探る詩人。現代詩の広がりをもとめ、日本語の浄化をはかる営為に、心より敬意を表したい。(篠弘)

 ◆演劇・邦舞・演芸部門 平幹二朗さん=舞台「鹿鳴館」「唐版 滝の白糸」での演技

 ◇舞台の巨人、際立つ

 神話世界の巨人族の一人がわが国の舞台に降り立ったか、と思わせるのが平幹二朗のスケールの大きさの魅力である。

 2013年で言えば、一つは6月の四季自由劇場で見せた「鹿鳴館」の影山悠敏である。

 三島由紀夫の絢爛(けんらん)たるレトリックをよどみなく駆使しながら、東洋、西洋の両文明に両脚を踏まえた明治の男を威風堂々と演じきった。

 もう一つは10月のBunkamuraシアターコクーンで演じた「唐版 滝の白糸」の謎の男・銀メガネである。

 唐十郎の劇詩の宇宙に登場するこの男は、銀メガネと名づけられたせいか、目の前に現れる水芸師お甲や少年アリダの本当の姿を映し出しながら、自分の姿は見せない。その無限に広がる空なる存在にリアリティーを与えたのは、平のひとまわり大きな演技である。

 80歳を迎えた彼は、今年もますます意欲的な舞台に挑み続けるはずである。(小田島雄志)

 ◆特別賞 永六輔さん=旅番組「遠くへ行きたい」など長年にわたるテレビ・ラジオへの貢献

 ◇明るさ、強さに拍手

 永六輔さんが早稲田大学在学中から放送作家、ラジオ番組司会者として活躍して居(お)られたと知り、改めてその長期にわたる仕事ぶりに感動した。私の知っている永さんは穏やかで明るいお人柄ながら、ここぞという時には決して信念をまげない強さがあって、それが作品にさりげなく滲(にじ)み出ている。多くのファンが永さんを支持する所以(ゆえん)であるかと思う。

 今回の受賞対象の一つとなった「遠くへ行きたい」は永さんでなければできない、永さんでなければ続けられない凄(すご)い仕事とかねがね感動していた。永さんも私もかつて日本の激動の時代を越えて来た世代であるが、現代はそれとは違う形で日本人がさまざまの課題に立ち向かわざるを得ない状況にある。永さんの創られた多くの作品がそれを聞いたり、見たりする人々に活力を与えてくれるという意味でも今回の授賞はタイムリーであった。(平岩弓枝)

 ◆第16回千田是也賞 小川絵梨子さん=「ピローマン」「帰郷―The Homecoming―」「OPUS/作品」の演出

 ◇鮮烈な才能、幅広げ

 受賞すべくして受賞したと言っていい。

 対象になったのは名取事務所の「ピローマン」(マーティン・マクドナー作)、ランズファーストの「帰郷―The Homecoming―」(ハロルド・ピンター作)、新国立劇場の「OPUS/作品」(マイケル・ホリンガー作)の3本で、うち2本は翻訳と演出を兼ねる。しかも、いずれも一筋縄ではいかない戯曲ばかりである。

 小川絵梨子の演出にはじめて接したのは、2010年の「今は亡きヘンリー・モス」(サム・シェパード作)だった。すでにこの時から翻訳と演出を担当していたが、これはまことに鮮烈な舞台で、「才能」に出会ったという気が強くした。初見以来、忘れがたい存在だったわけだが、ここに来ての一つの変化はというと、コメディータッチの戯曲も視野に収め、成果を上げたことだ。フリーという貴重な立場での、今後の大いなる活躍を期待したい。(大笹吉雄)

* * *

 ◆選考委員(敬称略)
 ◇毎日芸術賞=礒山雅(音楽評論家)▽小田島雄志(演劇評論家)▽黒井千次(作家)▽篠弘(歌人)▽高階秀爾(美術評論家)▽平岩弓枝(作家)▽伊藤芳明(毎日新聞社主筆)
 ◇千田是也賞=大笹吉雄(演劇評論家)▽水落潔(同)

 ■人物略歴
 ◇あおき・のえ
 東京都生まれ。武蔵野美術大大学院造形研究科(彫刻コース)修了。2000年芸術選奨文部大臣新人賞、03年中原悌二郎賞優秀賞など。全国各地で個展多数。鉄のほか、授賞対象展から石こうを使った作品にも取り組む。55歳。

 ■人物略歴
 ◇さえき・かずみ
 宮城県生まれ。高校卒業後、執筆の傍ら30代半ばまで電気工を続けた。2004年「鉄塔家族」で大佛次郎賞、07年「ノルゲ Norge」で野間文芸賞。私小説作家として活躍、自ら苦しむアスベスト禍の記録文学もある。54歳。

 ■人物略歴
 ◇おさだ・ひろし
 福島県生まれ。早稲田大卒。1960年代から詩作を始め、読書や紀行のエッセーも多い。2009年に詩集「幸いなるかな本を読む人」で詩歌文学館賞、10年に「世界はうつくしいと」で三好達治賞など受賞多数。74歳。

 ■人物略歴
 ◇ひら・みきじろう
 広島県生まれ。1956〜68年、劇団俳優座で活躍。83年、蜷川幸雄演出のギリシャ悲劇「王女メディア」をイタリア、ギリシャで演じて高く評価された。主宰する「幹の会」でシェークスピア劇の上演に挑み続けている。80歳。

 ■人物略歴
 ◇えい・ろくすけ
 東京都生まれ。早稲田大在学中に放送作家、司会者としてデビュー。作詞家、ラジオパーソナリティーなど活動範囲は幅広く、46年続いたTBSラジオ「永六輔の誰かとどこかで」は1万2629回を数えた。80歳。

 ■人物略歴
 ◇おがわ・えりこ
 東京都生まれ。聖心女子大卒業後、米アクターズスタジオ大学院で演出専攻。日本での本格デビューとなった2010年「今は亡きヘンリー・モス」の翻訳・演出で脚光を浴びる。ほかに「プライド」「橋からの眺め」など。35歳。