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「第7回絹谷幸二賞」発表

 若手画家の創作活動を応援し、具象絵画の可能性を開くことを目的にした第7回絹谷幸二賞(協賛:三井物産株式会社)の贈呈式が3月16日、東京都千代田区の学士会館でありました。受賞したのは京都市立芸術大学大学院の谷原菜摘子さん。奨励賞には東北芸術工科大学大学院の久松知子さんが選ばれました。


谷原菜摘子さん作「汝、如何にして其の罪を償わん」 2014年

久松知子さん作「日本の美術を埋葬する」 2014年

<選考委員の選評>

◇ただならぬオーラ実感 明治学院大・山下裕二教授

 真っ黒な背景からぬっと現れて、異様なふるまいを見せる女性たち。谷原菜摘子さんの作品を画像ではじめて見たときから、ただならぬオーラを感じた。その後実見して、ベルベットに油彩で描かれていることを知り、試行錯誤の末にあふれるような想念を画布に定着させるこの方法を獲得したのだと了解した。土俗的シュールレアリスムともいうべきオリジナリティーを高く評価したい。

 久松知子さんは、日本近代美術史を十全に咀嚼(そしゃく)した上で、美術史そのものを絵画化するという、これまでありそうでなかったテーマに取り組んで、モニュメンタルな大作に結実させた。クールベの作品の構図を下敷きに、岡倉天心、横山大観から、現代の画家、評論家までを配した集団肖像画は、二十一世紀初頭の美術をめぐる状況をしっかり映し出す鏡のような作品だと思う。

◇視覚通じ触覚にも訴え 大阪電気通信大・原久子教授

 初めて谷原菜摘子さんの絵を見た時、目の前に閃光(せんこう)が弾(はじ)けるような衝撃に見舞われた。恐怖感を覚えるような世界が描かれているのだが、きらびやかなディテールに視線を奪われ、好ましからざる光景を受け入れさせられてしまった。漆黒のベルベットの柔らかな光沢の上に描かれた絵画は、視覚を通して強く触覚にも訴えかけてくるもので、他の若手の作品にない独自性が確認できた。

 久松知子さんは、日本の美術が近代化する中で生まれた「日本画」と泰西名画をなぞらえつつ答えを求めようと対峙(たいじ)して、谷原さんとは好対照の作品展開だ。岡倉天心以来の日本美術の系譜をめぐる彼女の視線を、実直に描いている姿勢は、ひとつの時代の節目に大事な行為として評価されるべきだろう。

 あらゆるメディアを選択できる現在、絵画表現を通して自身が描くべきものを見いだし、確信を持って絵筆をとる彼女たちを称賛したい。

 ◇自身の声に耳傾けた 美術家・鴻池朋子さん

 谷原さんの絵の画布はベルベットの布。この深い光沢感をもつ漆黒の闇にめぐり合うまでに沢山(たくさん)の画材を試したそうである。作家にとって何の素材を使うかは、何を描くかよりも身体的に密接に繋(つな)がっていることで重要なことだ。自身の奥底からの声に真摯(しんし)に耳を傾け、手芸するように絵を描く女の子の手の喜びが力強い画力と共に迫力で伝わってくる。そもそも明治期に油画が輸入されてから、何も疑わずにキャンバスに絵を描いてきたこと自体が不思議だ。

 期せずして久松さんもその時代にさようならと語っている。現存を批判する風刺的作風自体は伝統的な芸術表現であるのだが、大勢の大人たちが木々のように立つ美術の森の中で一人ぼっちで彷徨(さまよ)う作者はまるで小さな赤ずきんである。各々(おのおの)の顔がとてもよく描けているので、ふと全員を裸にしてもよかったかなと思った。

■絹谷幸二賞

 日本を代表する画家の一人で、文化功労者の絹谷幸二氏が2008年、毎日新聞社に呼びかけて創設。35歳以下の画家を対象に、前年に国内で発表した「具象的傾向の絵画」から選考しています。本賞100万円、奨励賞50万円。

■受賞者略歴

◇たにはら・なつこ
 1989年埼玉県生まれ。京都市立芸術大学大学院絵画専攻油画在籍。兵庫県芦屋市在住

◇ひさまつ・ともこ
 1991年三重県生まれ。東北芸術工科大学大学院修士課程 芸術文化専攻日本画領域在籍。山形市在住。