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「第8回絹谷幸二賞」発表

 若手画家の創作活動を応援し、具象絵画の可能性を開くことを目的にした第8回絹谷幸二賞(毎日新聞社主催、三井物産株式会社協賛)の贈呈式が3月17日、東京都千代田区の学士会館でありました。受賞したのは筑波大学大学院の柏木健佑さん(27)、奨励賞には横山奈美さん(29)=愛知県立芸術大学大学院修了=が選ばれました。

柏木健佑さんの作品「いや、それは出来ない」
横山奈美さんの作品「逃れられない運命を受け入れること」

 <選考委員の選評>

 ◇さまざまな解釈誘う 島敦彦・愛知県美術館館長

 柏木健佑さんの絵画は、荒唐無稽(むけい)な不条理劇を思わせる光景で見る人をくぎ付けにする。登場するのは男性ばかりで、壁に頭を打ち付けたり、浮遊したり、裸体もあれば正装の人もいる。扉や鏡、布や畳、あるいは自身が創作したオブジェなど、いろんな小道具も駆使して、超現実的かつ不可思議な場面を緻密に描き出す。人間の深部に潜むおぞましい欲望や暴力性などにも言及しているようでいて、それほど深刻にならずユーモラスな一面もある。さまざまな解釈を誘引する特異な絵画として大いに注目された。

 一方、日本で油彩画を描くことの困難を自覚しつつ、独自の具象絵画を追究する横山奈美さんは、ミカンの皮やひも、あるいはトイレットペーパーの芯など、普段は顧みられない対象を克明に描く。特に近作では、描く対象を大画面に展開することで、異様な存在感を醸し出している。リアリズムの新たな地平を開く可能性を感じた。

 ◇未知数の可能性評価 飯田志保子・東京芸術大准教授

 柏木健佑さんの作品を見た時、描かれた情景をどのように受け取れば良いか戸惑いを覚えた。時代も国家も象徴化され、政治混乱や社会不安を想起させる奇妙不可解な場面にシュールレアリスティックに描かれた人物や物体が配置されている。緻密に構築され細部まで目を奪う画面には、深層心理や事件性をはらんだ底知れない物語を読み取らずにはいられない。マグリットやブリューゲルなど柏木さんが参照する巨匠のみならず、ドイツのネオ・ラオホや台湾の陳敬元といった同時代の画家に通じる現代性も持ち合わせる。定型の解釈を与えず見る者を躊躇(ちゅうちょ)させる未知数の可能性を評価した。

 横山奈美さんは絵画が本質的に持つ荘厳さの体現を実直に試みている。高橋由一ら近代画家が洋画を憧憬(しょうけい)したであろう眼差(まなざ)しを自身に重ね合わせ、些細(ささい)な物に迫真の物質感を与えモニュメント化する実践に、ユーモアと近代美術史が統合されている点を評価したい。

 ◇遊びにあふれている 鴻池朋子・美術家

 きちんとした技法で描けば描くほど古くさく戦後的風味が加算される若い作家である柏木さんの絵。昨今、他者と繋(つな)がることばかりが尊重される中で、言語は人間の最終コミュニケーション道具ではないときちんと表現してくれる絵に出会えるとすごいし信頼を感じる。絵画における他者との断絶とは、絵を描く上でとても重要なものに真摯(しんし)にアプローチしようとするゆえの作家の所作なのである。また画面を見つめていくと、決して思想的で寓意(ぐうい)的な作品ではない大いなる遊びに溢(あふ)れていて、そこにこの作家への秘密の通路を発見して嬉(うれ)しくなる。絵は作家本人も気づかないものが出てしまうから面白い。

 横山さんの絵は馬鹿馬鹿(ばかばか)しいほどの物への集中力が今むき出しのまま表れていて清々(すがすが)しい。今どき、絵画と正面から向き合って格闘する人なんかいるのだろうか。否! 絹谷賞にはそんな逸材と出会える喜びがあるのである。

 ■絹谷幸二賞

 日本を代表する画家の一人で、文化功労者の絹谷幸二氏が2008年、毎日新聞社に呼びかけて創設。35歳以下の画家を対象に、前年に国内で発表した「具象的傾向の絵画」から選考しています。本賞100万円、奨励賞50万円。

 ■受賞者略歴
 ◇かしわぎ・けんゆう
 1988年北海道生まれ。筑波大学大学院博士課程(芸術専攻洋画領域)在籍中。茨城県つくば市在住。

 ◇よこやま・なみ
 1986年岐阜県生まれ。愛知県立芸術大学大学院美術研究科油画・版画領域修了。茨城県取手市在住。