毎日地球未来賞:第2回、受賞記念講演会


地球規模の課題である食料・水・環境の問題解決に取り組む個人や団体を顕彰する「第2回毎日地球未来賞」(毎日新聞社主催、内閣府など後援、クボタ協賛)の表彰式と記念講演会がこのほど、大阪市北区の毎日新聞大阪本社で開かれた。毎日地球未来賞に輝いたNPO法人「カラ=西アフリカ農村自立協力会」の村上一枝代表理事と、クボタ賞の「西日本科学技術研究所」の福留脩文(ふくどめしゅうぶん)代表取締役、NPO法人「岩手子ども環境研究所」の吉成信夫理事長の講演内容を紹介する。【文・勝野俊一郎、田所柳子、写真・後藤由耶】

医療と教育の大切さ伝える

NPO法人カラ=西アフリカ農村自立協力会・村上一枝代表理事(73)

もともと私は歯科医です。89年まで開業していましたが、子供たちがすぐ亡くなってしまうマリの社会を見て、この活動を92年から始めました。

活動のうち、農業や女性の手仕事などは、すぐに収入を得られるから理解されやすい。逆に難しいのが医療と教育です。「病気になったら薬を飲めばいい」と考える人が多く、なかなか普段から健康な生活を送らないといけないと思ってもらえないんですね。

ですから最初は代表の女性5人に、子供が下痢や熱を出したらどうするかなどを教えました。そして自分の村に帰って内容を伝えてもらう。そうやって少しずつ意識を変えていくと、定期検査に行く妊婦や予防接種を受ける子どもが増え、下痢が減りました。

識字学級でも、難しいのは字が書ける人がすぐに出稼ぎに行っていなくなってしまうんです。だから毎年、先生の養成もしなくてはならない。それでも村民が読み書きをできるようになると、教科書を使って助産師の育成が可能になりました。勉強すれば助産師になれるというのが村人の意欲につながっていて、最近は教室に来る女性の数が増えつつあります。

今回の受賞に現地スタッフも喜んでいます。今後も支援をお願いします。

自然との共生、子供たちと学ぶ

NPO法人岩手子ども環境研究所・吉成信夫理事長(56)

96年に宮沢賢治の故郷・岩手県に妻、娘と移住しました。森林が86%で、牛の数が人間より多い葛巻町の外れで廃校を見つけ、子供たちと一緒に自然と共に生きることを学ぶ「森と風のがっこう」を作りました。標高700メートル、冬は零下20度になります。自然エネルギーと地産地消を推進しようと始めましたが、東日本大震災後は生き残るすべを学ぶための学校となりました。

葛巻町で温暖化防止について講演したところ、「温暖化は問題だと頭では分かるが、少しくらい暖かくなった方がいいんでねえか」と言われました。それ以後は、知識と体感の落差を埋めるため、「もったいない」など生活の中で生まれた言葉を使っています。

堆肥(たいひ)を作るコンポストトイレや自給用の畑など、私たちが生きていくための循環の場を作りました。廃材を利用したカフェには地元の人が訪れるようになりました。

子供たちに必ず約束するのは、「遊ぶように学び、学ぶように遊ぶこと」です。これから先の日本、地域の未来を考えるために適正な技術を組み合わせる力を、子供たちと一緒に楽しみながら作っていきたい。被災した沿岸の方とも、地域作りに取り組んでいきたいと思います。

時代が求める土木技術開発

西日本科学技術研究所・福留脩文代表取締役(69)

86年にスイスで、自然環境を復元する土木技術である「近自然工法」に出会いました。環境問題を受けてスイスやドイツで開発された工法で、川や森など異なる生態系の境界線に着目します。自然石を配し、直線的ではない川岸を作ることで、希少種の昆虫や魚の種類、数も増えるというものです。

安全面の治水と自然の作る美的造形、力学的法則を備えた土木技術を開発するのが私の役割です。山の渓流は安定した構造を持ち、原理が分かれば作ることが可能です。川底の石は河川の骨格にあたり、水の流れに抵抗しないように堆積(たいせき)しているので、構造が実に安定しているのです。

この技術を施した愛知県の川は豪雨でも災害が起きませんでした。福岡県では、従来のコンクリートの護岸工事だと次第に川幅が狭くなりツルやヨシが生えていましたが、コンクリートを使わず川底の石をうろこのように組むと川幅を維持し、ツルなども生えなくなりました。北海道の網走川でもサケが多く上ってくるようになりました。

河川の骨格を作り、瀬と淵(ふち)と砂州がある自然な流れができあがると、砂利が堆積し始め、魚も多くすめるようになります。土木技術は時代の要請に応じて新しくなるのです。

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