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| <上から>■レンガ造りの小学校に集まった子どもたち。9月から新学期が始まる=苑西庄村で8月■地元の子どもたちと一緒に、アンズの苗を植える日本人ボランティア(緑の地球ネットワーク提供)■植林した松の育ち具合を見るGEN大同事務所長の武春珍さん(右)と高見さん=大同市聚楽郷で8月 |
「わたしの家に来て」。少女が高見さんの目を見つめ、手を引いた。人口わずか204人の中国・大同市苑西庄村。今月23日、黄土を固めて作った家々の間を抜け、高見さんたちと少女の家を訪ねた。部屋の黒板に「歓迎」と書かれ、その下には可愛い女の子の絵。少女はスイカやリンゴを切り、精いっぱいのもてなしをしてくれた。
高見さんが少女の頭をなでながら説明してくれた。「昨年4月のこと。村の小学校の先生が言うには、この子は9月から中学生だが、弟が2人いて、貧乏で進学できない。でも勉強は良くでき、絵もうまい。本人は勉強したがっている。途中から、この子が顔を手で覆って泣き出したんだ」
家の黒板は、墨を塗って作ったものだ。少女は英単語を書いては消して練習を繰り返し、紙にも小さな文字をびっしりと書いて勉強していた。けなげな姿に、高見さんはその場で学費の援助を決めたという。
苑西庄村は、98年に緑の地球ネットワーク(GEN)の援助で深い井戸を掘るまで、今よりひどい貧困にあえいでいた。昔からあった四つの井戸では、1日にバケツ80杯分の水しか出ず、飲み水にも困っていた。自宅に泊めてくれた共産党村支部書記の張志さん(43)は「GENの井戸のおかげで庭で野菜を作り、ブタやヒツジなどを飼う余裕もできた。収入は4~5倍に増えた」と笑顔を見せた。
高見さんに窮状を訴えた村でただ一人の教師の楊維花さん(41)は「以前は学費がないために小学校に上がれない子どもが多く、悲しい思いをした。今は井戸のおかげで全員が学校で学んでいる。GENに感謝している」と話し、村民の亢廷さん(64)も「収入が増えて、他の村から10人も嫁が来た」とうれしそうだった。
GENは、苑西庄村を含め2カ所で井戸を掘った。しかしそれ以上は掘らない。あちこちで井戸が枯れていると知り、緊急避難的に掘っても根本的な解決にならないと考えるからだ。
この村だけでなく、大同市全体が水問題を抱える。大同市は、北京の西約300キロ、黄土高原の東端に位置する。世界遺産に登録された雲崗石窟の石仏が彫られた5~6世紀には森林もあったと見られるが、開発で砂漠化が進んだという。見えるのは黄土色のはげ山、水がほとんどない川、雨で崩れてがけになった「浸食谷」ばかりだ。
北京から車で苑西庄村に向かう途中、突然猛烈な雨がフロントガラスをたたき、前が見えなくなった。路肩に止めて待つと、わずか数分でやんだ。GEN顧問の遠田宏・元東北大助教授(72)=植物学=は「黄土でも、枯れた植物やたい肥が混じれば樹木や作物が育つが、今のような激しい雨で表土が流されてしまう。土壌浸食とセットになった砂漠化が進んでいて、水土流出と呼ばれている」と説明してくれた。
大同市の水問題は北京の水問題に直結する。大同市を流れる桑干河は北京の水がめだった官庁ダムに注ぐが、ダムの水量が激減し、水質悪化で98年以降は飲用に使っていないという。地下水も減る一方だ。高見さんは「日本から見た北京は大発展のシンボル。しかし、後ろから見ると砂上の楼閣だった」と語る。
◆植林
大同市街を少し外れた丘陵地。約250ヘクタールの斜面に、まだ小さな松が等間隔に並ぶ。99年からGENが取り組む緑化協力事業で、水土流出を防ぎ、自然環境の改善を目的としている。小さなウサギが顔を出し、私たちに気付くと逃げていった。
GENの中国事務所「緑色地球網絡大同事務所」の武春珍所長(42)は「草さえない土地で、多くの人から、ここの植林は難しいと言われた。だからこそ、成功したらモデルとして緑化事業に説得力を持たせられると考えた」と熱心に語る。松の根に寄生して栄養分を与え、病虫害に強くしてくれる「菌根菌」を日本から導入し、成功したという。
GENは、風土に適した苗作りの研究などをする拠点を建設し、日本からの技術移転にも力を注ぐ。「20年は続けるという約束でやってきた。中国側が自立し、『もう来るな』と言ってもらえたら一番うれしいね」。高見さんが、冗談めかして話した。
◇大学へ20人が進学
「今年は春になっても氷点下3度まで下がり、アンズがあまり実らなかった。日本に凍害を防止する薬はないか」
大同市呉城村で、共産党村支部書記の王迎才さん(46)が真剣なまなざしで聞いてきた。この村では94年からアンズ栽培を始め、現在は計約260ヘクタールに広がった。GENは00年から協力している。種の中身の仁(杏仁)を薬や食材として使い、アワや豆類などと比べ収入は3倍に増えたという。
GENは小学校に付属アンズ園を作り、収入の3割が学校に寄付される。王さんは「以前は、村から大学に進学する者はいなかったが、00年以降に約20人が進学した」と誇らしそうに話す。同村を含め、これまで約50校に計約600ヘクタールのアンズ園を作った。
◇信頼関係、地道に構築
緑化協力活動は成功ばかりではなかった。初期のプロジェクトは失敗に終わることが多かったという。
設立してすぐの92年1月、大同市で行われていた松などの植林の現場を視察し、二つの緑化プロジェクトへの協力を決定。第1次緑化協力団を派遣した。
「しかし、実際に植えてみると全くダメ。緑化がうまくいっていると聞いていたが、中国側に良いところだけを見せられていたんです」。設立メンバーで、緑の地球ネットワーク(GEN)事務局長の高見邦雄さん(57)が反省を込めて話す。当時、ネットワークのメンバーには緑化や植物の専門家がおらず、現地の技術を当てにした。しかし、中国側の技術が適切でなかったのだ。93年秋の時点で、根付いて成長している苗はほとんどなかった。
このため、日本の専門家の知恵を借りることにした。大阪市立大理学部付属植物園などの建設に携わった立花吉茂・花園大客員教授(園芸学)=95年から緑の地球ネットワーク代表=を団長に、専門家による調査団を結成し、94年夏に派遣した。立花さんは「行ってみると、あまりにも素人くさいことをしている。こんなことではあかん、と活動を続けることにした」と話す。
地元の人たちは、苗を植えた後で土に水をかけ、足で踏み固めていた。しっかり踏まないと根と土が密着せず、保水性が悪くなると考えていたのだ。しかし、黄土高原の土は粒子がとても小さく、立花さんは「これでは日干しれんがに苗を植えているようなもの。根が窒息している」とあきれたという。
改善策は、砂や石炭の燃えかすなどを土中に入れ、通気性を良くすることだった。地元の人たちはなかなか実行しようとしなかったが、繰り返し効果を実証してみせることで納得してくれたという。高見さんは「緑化は割に合わない仕事。悪い結果はすぐに出るが、良い結果はなかなか出ない。うまくいっていても、干ばつなどの自然災害や、人の手入れに手抜きがあれば壊滅してしまう」と、10年以上にわたる活動を振り返る。
◆反日感情
「なんというところに来てしまったんだ!」
大同市の農村に初めて足を踏み入れた高見さんの第一印象はひどいものだった。1年で最も寒い時期で、夜は氷点下30度近くまで気温が下がる。石炭の煙で目が痛い。大地も家も、どこを見ても黄土色の世界だった。
同市を活動場所としたのは、中華全国青年連合会の紹介があったためだ。「緑化に大変熱心なところ。そのうえ美人の産地として有名で、いい酒もある」。連合会はそう説明したという。
しかし、同市は日中戦争で大きな被害を受けた地域でもあった。交通の要衝で、石炭の産地の大同周辺に日本軍が攻め入り、中国共産党軍と激しい戦闘を繰り広げた。高見さんによると、「日本軍以来の外国人だ」と言われ、「日本鬼子(リーベングイズ)」とののしられたこともあった。
それでも、地道な活動を通じて徐々に信頼関係を築いた。日本人のボランティアが来るというので、村を挙げて歓迎してくれたこともあるという。高見さんは「一緒に汗を流すのがいいのでしょう。農村の人は懐の深いところがあって、子どもに手を引いてもらって家を訪ねると、受け入れてくれた。この先どう変わっていくんだろうというおもしろさを感じ、続けてこられた」と笑う。
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◇受賞理由
砂漠化が進む過酷な自然環境と、日中戦争以来の反日感情の強かった地で、ねばり強く活動を継続している点は高く評価できる。アンズ栽培では、従来の雑穀栽培の何倍もの収入をもたらし、収益は地域の教育にも生かされている。また、育苗・栽植技術の改善に加え、人材育成などソフト面の協力にも力を入れ、中国側からも高い評価を得ている。
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◇プロフィル
中国との民間交流にかかわる人や、環境問題に関心のある研究者たちが92年1月に設立。中国側から紹介された大同市で緑化協力活動を開始した。年2回、植林を体験するワーキングツアーを企画、これまでに計約2000人が参加し、計3400ヘクタールに松などの苗1350万本を植えた。
また小学校にアンズの果樹園を作り、収入の2~3割を寄付して教育を改善する活動も。事業は会員の会費や助成金で支えられ、会員は現在約640人。01年、高見事務局長が中国政府の「国家友誼奨」受賞。〒552―0012 大阪市港区市岡1の4の24の501。電話06・6576・6181、ファクス06・6576・6182
2005年8月31日毎日新聞大阪朝刊





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