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| 栃木工業高校の校庭で放課後、車椅子の修理に汗を流す福祉機器製作部の生徒ら |
◆海を渡る再生の車椅子--栃工高国際ボランティアネットワーク
タイヤがパンクし、座面や背もたれのシートが破れている。骨格がさびたり、折れているものもある。昨年12月、タイ西部のカンチャナブリ。栃木工業高校の生徒20人は、病院と寺院に持ち込まれた40台の車椅子を見て驚いた。
車椅子は、タイ奥地の農村の障害者が使っていたものだ。生徒に修理してもらえるとあって、各地からトラックやバイクで運ばれてきた。生徒はさっそく、2人1組で車椅子の修理に取りかかる。日本から持ち込んだり、タイで購入したチューブや金属などの部品を加工して使う。シートはウレタンを布で包んでミシンで縫った。
過去に訪問した先輩の反省や課題を生かし、生徒らの修理技術は毎年、進歩している。例えばシートの修理の場合、これまではホチキスや裁縫セットを使っていたが、満足な仕上がりにならなかったため、今回はミシンを持ち込んだ。シートやひじ置きは心地よさも兼ね備えた仕上がりとなり、汗だくの生徒たちは満足そうだった。それでも、3日間で40台すべてを修理することはできなかった。
◇発端は不幸な出来事
福祉活動に力を入れてきた同校は1991年から、生徒が毎年、タイを訪問し、交流や福祉活動をする「国際交流タイボランティア活動」を始めた。訪問国がタイになったのは、当時、タイ人の生徒がいたことも関係した。ただ、初めから車椅子の修理活動をしたわけではない。それは、日本で働くタイ人女性のある不幸な出来事がきっかけだった。
同年、宇都宮市内で30代のタイ人女性が飛び降り自殺を図った。一命はとりとめたが、重傷を負い、障害が残った。タイ出身で、宇都宮市のボランティア団体「アジアの問題を考える会」代表の泉田スジンダさん(54)に連絡が入り、スジンダさんらが看病や付き添いをした。1年後、女性は退院したが、車椅子が必要となった。
スジンダさんは女性をタイに帰国させ、障害者施設に入所させた。すると、施設の障害者たちは女性の車椅子に目を奪われた。見た目だけでなく、軽快に進み、座り心地もよさそうな日本製。同行したスジンダさんはタイの障害者の車椅子の多くがさびつき、壊れていることに驚いた。
帰国後、スジンダさんは使われなくなった車椅子をタイなどに贈ろうと考えた。「そのためには修理が必要だ」。スジンダさんはタイ訪問を始めた同校に協力を求めた。
◇出番を待つ数百台
スジンダさんの求めに同校は積極的に動いた。日本各地の障害者や施設から中古の車椅子が次々と寄せられ、同校の福祉機器製作部の部員が毎日、修理することになった。「空飛ぶ車いす活動」の始まりだった。
クラブ活動である同部の部員は現在12人。機械いじりが好きで、活動に賛同する生徒が集まった。同部の倉庫には、数百台の車椅子が所狭しと積まれ、部員に修理されて海を渡る日を待っている。部員は放課後、一台一台を丁寧に直していく。1台の修理には1~3週間かかる。部長の田中正輝さん(16)は「ボランティアに興味があって入部した。海外の人に喜んで使ってもらえるよう、きちんと修理したい」と目を輝かせた。
寄贈先はタイからアジア各地、そして世界各地へと広がった。海外を旅行する人に預けるなど、スジンダさんら同会メンバーや地域の団体・ボランティアの協力があって海外の障害者の手に届く。そして、この「空飛ぶ車いす活動」にとどまらず、全校生徒から参加者を募る「国際交流タイボランティア活動」の際にも、現地で車椅子を修理することになった。
◇汗を流す大切さ
17回目となった昨年12月の「国際交流タイボランティア活動」。生徒らは約1週間かけて、バンコクの障害者施設やカンチャナブリで修理活動をした。最終日の夜、生徒らはミーティングで涙ながらに感想を語った。
「障害を持つ子どもが、満面の笑みで『ありがとう』と言ってくれた。一生忘れない」。「車椅子の持ち主が笑顔で喜んでくれた。こんなうれしいことは初めてだった」
渡沼俊幸さん(16)は重度の障害を持つ子の親から「車椅子に座った時、子どもの首が動かないようにしてほしい」と頼まれた。クッションで首を支える部品を試行錯誤しながら作った。渡沼さんは「『ありがとう』と笑顔で感謝された。その笑顔のために汗を流すことの大切さを学んだ」と話す。
毎年、生徒たちの活動を現地で世話しているタイ人女性は「これは『人間の勉強』。決してお金では買えない。そして、学んだことは世界中のどこに行っても通用する」と帰国する生徒にエールを送った。
◇メダリストが誕生
同校などには、世界中の人から感謝の声が寄せられている。
モンゴルの主婦は火力発電所で働いていた際、事故で両足を失った。失意のどん底にいたが、同校で修理された日本製の車椅子を使うようになったのを機に、障害者の陸上競技を始めた。そして、地元の3000メートル競走で銀メダルに輝いた。主婦は手紙に「銀メダルは車椅子の性能が良かったためです。でも、自信がつきました。これからいろんな活動にも参加していきたい。感謝しています」とつづっていた。
スジンダさんは「私は種をまいただけ。同校の生徒やいろんな方がこんなに大きな木に育ててくれてうれしい」と生徒らの健闘をたたえた。
活動を担当する同校教諭の小倉幹宏さん(45)は「生徒は車椅子修理で技術者魂を学び、持ち主から感謝されて心を学ぶ。多くの方の支えで成り立っている活動であり、生徒のかけがえのない財産だ。今後、もっと多くの若者に参加してほしい」と熱く語った。
◇プロフィル
栃木県立栃木工業高校(角田重雄校長、約600人)は1962年創立。地域の団体などと連携した「栃工高国際ボランティアネットワーク」が、日本で使われなくなった車椅子を生徒が修理して各国に贈る「空飛ぶ車いす活動」を展開。今年春までに1700台以上の車椅子が21カ国の障害者らの手に渡った。また、創立30周年を記念し、91年から生徒と教職員がタイを訪問する「国際交流タイボランティア活動」を開始。現地の施設などで車椅子の修理を続けており、これまで計17回、約220人の生徒が参加した。同校は栃木市岩出町129。0282・22・4138。
◇受賞理由
高校生が学校で学んだ技術を国際援助に生かすことで、人の役に立つだけでなく、人間として大切な事も学んでいくという画期的な国際交流活動が認められた。参加した生徒が卒業後も後輩を支援するなど、活動の継続性や教育の効果は地域からも高く評価されており、各団体からの支援も絶えない。同校にならって「空飛ぶ車いす活動」に参加する高校は国内で60校以上、今では韓国など海外の高校にも広がりつつあり、若者の心を突き動かす活動の奥深さが絶賛された。
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◇毎日国際交流賞
市民レベルの国際交流・協力で優れた活動を顕彰し、草の根の活動の支援と促進を目的に、毎日新聞社が89年に創設した。全国からの推薦を基に本社委嘱の選考委員が審議して決めている。
選考委員は、佐々木高明(国立民族学博物館名誉教授)、陳舜臣(作家)、北沢洋子(国際問題評論家)、湯下博之(元駐フィリピン大使)、熊岡路矢(日本国際ボランティアセンター理事)の各氏と朝比奈豊(毎日新聞社主筆)。
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◇受賞記念講演会--来月21日、毎日新聞大阪本社で
「第19回毎日国際交流賞」の表彰式・受賞記念講演会を開きます。
<日時>9月21日(金)午後2時~4時半
<会場>毎日新聞大阪本社オーバルホール(大阪市北区梅田3の4の5)
<講演内容>「実践してみよう!地域と世界をつなぐボランティア活動を」栃工高国際ボランティアネットワーク、三宅健太さん、関口和秀さん、高田明さん▽「カンボジアと共に生き共に生かされて27年」後藤文雄さん(カトリック吉祥寺教会神父)
<参加料>無料
<参加申し込み方法>はがきに郵便番号、住所、氏名を明記し、〒530―8251 毎日新聞大阪本社総合事業局「毎日国際交流賞事務局」(06・6346・8377=平日10~18時)へ。折り返し入場証を郵送します。
主催 毎日新聞社
後援 外務省ほか
協賛 株式会社クボタ





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