受賞を喜ぶ難民支援協会の職員やボランティア=小林努撮影 |
第21回毎日国際交流賞(毎日新聞社主催)は、特定非営利活動法人難民支援協会(中村義幸代表理事、本部・東京都新宿区)と、新潟県の非営利団体「教育と環境の『爽(さわやか)』企画室」の片桐和子代表(72)と夫の昭吾さん(73)夫妻に決まった。難民支援協会は、母国での迫害を逃れ日本にたどりついた難民を生活面、法律面で支援し、国の難民対策に対して政策提言する活動を続けてきた。片桐さん夫妻は定年退職後、インドで路上生活をする子どもの現実を目の当たりにしたのをきっかけに私財を投じてインドにストリートチルドレンが暮らすための施設「子どもの憩いの村」を設立した。それぞれの活動を紹介する。【高野聡】
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◆すべての人を温かく--難民支援協会
「ママ、おなかがすいた」
東京都新宿区四谷、オフィス街にある難民支援協会の事務所。相談に訪れたウガンダ人女性(40歳代)の娘(4)がぐずり出した。「これ、食べられる?」。スタッフが支援物資の中からカップラーメンを差し出すと、「大好き。ママ一緒に食べよう」。少女は2膳(ぜん)の割りばしを用意し、母親に差し出した。
協会の事務所には電話や面会で相談が寄せられる。難民認定の申請方法、住宅探し、書類の書き方などだ。ウガンダ人女性は娘の保育園通園を巡って問題を抱えていた。難民認定申請中は就労が認められないのに、娘を保育園に通わせようとすると「働いていないこと」を理由に居住の自治体が入園を認めないのだ。
「一体どうすればいいのか」。女性の不満は募る。
女性は05年に来日、出産した。野党に所属していた夫は、現在行方知れずで、政府側に殺害された可能性が高い。「日本に来たかったわけではなかった。いくつかの国にビザを申請し、取得できた国が日本だった」と説明する。
来日当初、知人を頼って生活していたが、やがて短期滞在のビザが切れた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)本部を通じ、難民支援協会を知ったという。「言葉も分からず、難民認定の申請方法を教えてもらって非常に助かった」。娘の幼いころは、紙おむつなどの支援物資が役立ったという。
だが難民認定・不認定の結果が出るまでには申請から約2年かかり、この間、多くの難民は働けない。申請中の難民には外務省から生活費として「保護費」が支給されるが、保護費も近年の難民急増で、審査が厳格化され、支給が受けられなかったり、減らされたりするケースが増えている。女性は「どんな仕事でもいいから、働くことを認めてほしい。自立したい」と訴えた。
工場や倉庫が建ち並ぶ東京近郊のまち。7月、難民支援協会は住宅1棟を借りて「難民シェルター」を設けた。現在難民認定申請中の9人の男性が住む。保護費審査の厳格化は、家賃を払えない難民を生んだ。
住人の一人、コンゴ民主共和国の男性(30歳代)は06年に来日した。「空手、柔道、『ドラゴンボール』。ジャパニーズカルチャーにあこがれていた」
10年の歩みを振り返る難民支援協会の石川えり事務局長=東京都新宿区の同協会で、小林努撮影 |
母国では政治的迫害が強まっており、拘束された仲間の中には殺された者もいるという。「僕には行くところがない。日本で難民として認められるまで、シェルターの中でビデオを見て過ごすしかない」。男性は大柄な体を縮めるようにして、ため息をついた。
◆ ◆ ◆
新聞記事はルワンダの内戦で大量の難民が発生していることを報じていた。94年の夏。高校生だった石川えり事務局長(33)はその時の衝撃が忘れられない。
「難民のために自分も働きたい」。当時、クルド人やアフリカの国々から日本に来た難民を支援していたアムネスティ・インターナショナル日本を知り、ボランティアで参加した。その後、99年7月に難民支援協会が設立されたが、専従職員は1人だけ、石川さんもボランティアでの参加だった。
当初の支援の中心は、難民の「医・職・住」。安い住宅を探し歩いたり、医療保険が使えない難民のために善意で診療してくれる医者を募ったり、ハローワークに同行したり。しかし十分な支援ができないケースもあった。
一方で意外な展開もあった。従業員のミャンマー難民が入管に収容され「うちで一番焼くのがうまいので、早く帰ってきてほしい」と相談に来たお好み焼き店主。クルド難民と接するうちに難民の現状を知り、強制送還を止める署名運動のため街頭に立った夜間学校の先生......。難民が日本に増えることで、草の根の交流が生まれ始めた。
昨年の難民認定申請者は1599人。制度が始まった82年以来過去最高となった。難民支援協会が受ける相談も夏以降1日平均50件と増え、フルタイム、パートタイムのスタッフ計18人が対応に追われる。石川さんらは「難民を温かく迎えられる社会は、どんな人でも自分らしく生きられる社会ではないか。難民問題は、実は日本社会を映し出す鏡だと思う」と話している。
娘を連れ、難民支援協会に相談に訪れた難民認定申請中のウガンダ女性(手前)=東京都新宿区の同協会で、小林努撮影 |
◇法的・経済的に支援
難民支援協会は99年7月、アムネスティ・インターナショナル日本の運営委員の鴨澤巌・法政大名誉教授(故人)らが中心となり設立。日本に来た難民に対して、認定申請の相談を受ける法的支援や経済的に援助する生活支援を行うほか、政府や国会議員に対して難民政策に関する提言を行っている。これまでにミャンマー(ビルマ)、トルコ、イラン、スリランカ、エチオピアなど約30カ国からの難民の相談に対応。相談件数も年間約7800件(08年7月~09年6月)に達した。一方、難民問題に取り組む人材の育成を目指して01年から「難民アシスタント養成講座」を開始、これまでに1000人を超える受講者が学んでいる。事務所は〒160‐0004 東京都新宿区四谷1の7の10第三鹿倉ビル6階。電話03・5379・6001、ファクス03・5379・6002。
■受賞理由
政治的迫害などを理由に難民認定を求める人たちを国内で支援しようと10年前に設立し、難民への支援が十分と言えない日本で、この分野での取り組みを総合的に進めてきたことが評価された。
難民に対する法的支援に当たる弁護士や生活支援に取り組むボランティアなどスタッフが役割を分担して支援を充実させてきた。政府に対して難民政策についての提言も。難民を助けるボランティアの育成など、啓発活動も進めている。
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◇市民レベルの活動支援
毎日国際交流賞は、市民レベルの優れた国際交流・協力の支援と国際理解の促進を目的に、毎日新聞社が1989年に創設した。外務省が後援、株式会社クボタが協賛する。本社委嘱の選考委員が国内外からの推薦を基に審議して決める。選考委員は、湯下博之(元駐フィリピン大使)、北沢洋子(国際問題評論家)、熊岡路矢(日本国際ボランティアセンター理事)、荒巻裕(近畿大副学長)、平田オリザ(劇作家・演出家、大阪大教授)の各氏と菊池哲郎(毎日新聞社主筆)。
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◇10月に表彰式・講演会--大阪
第21回毎日国際交流賞の表彰式・受賞記念講演会を開きます。
<日時>10月10日(土)午後2時~4時半
<会場>毎日新聞大阪本社オーバルホール(大阪市北区梅田3の4の5)
<受賞記念講演>「日本での難民支援10年の歩み」難民支援協会代表理事、中村義幸さん▽「思い続ければ夢はかなう」片桐和子さん、片桐昭吾さん
<定員>先着400人。入場無料
<申し込み>はがきに郵便番号、住所、氏名、電話番号を明記し、〒530―8251 毎日新聞大阪本社事業部「毎日国際交流賞事務局」へ。折り返し入場証を郵送します
<問い合わせ>同事務局(06・6346・8377=平日午前10時~午後6時)
主催 毎日新聞社
後援 外務省ほか
協賛 株式会社クボタ
(2009年8月24日毎日新聞朝刊掲載)



受賞を喜ぶ難民支援協会の職員やボランティア=小林努撮影
10年の歩みを振り返る難民支援協会の石川えり事務局長=東京都新宿区の同協会で、小林努撮影
娘を連れ、難民支援協会に相談に訪れた難民認定申請中のウガンダ女性(手前)=東京都新宿区の同協会で、小林努撮影
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