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個人受賞 インドの家なき子に笑顔――教育と環境の「爽」企画室、片桐和子代表・片桐昭吾さん

個人受賞 教育と環境の「爽」企画室片桐「子どもの憩いの村」で暮らす子どもたち=高野聡撮影


 第21回毎日国際交流賞(毎日新聞社主催)は、特定非営利活動法人難民支援協会(中村義幸代表理事、本部・東京都新宿区)と、新潟県の非営利団体「教育と環境の『爽(さわやか)』企画室」の片桐和子代表(72)と夫の昭吾さん(73)夫妻に決まった。難民支援協会は、母国での迫害を逃れ日本にたどりついた難民を生活面、法律面で支援し、国の難民対策に対して政策提言する活動を続けてきた。片桐さん夫妻は定年退職後、インドで路上生活をする子どもの現実を目の当たりにしたのをきっかけに私財を投じてインドにストリートチルドレンが暮らすための施設「子どもの憩いの村」を設立した。それぞれの活動を紹介する。【高野聡】

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 ◆インドの家なき子に笑顔--教育と環境の「爽」企画室、片桐和子代表・片桐昭吾さん

 インド東部の小都市、ビシャカパトナムの空港からスクールバスで約1時間。パームツリーの葉で屋根をふいた質素な家々が点在する田園地帯に設けられた「子どもの憩いの村」は、子どもたちの笑顔があふれていた。施設の「お母さん」、片桐和子さんの歓迎会。「私が住んでいるのは日本ですが、心はインドに住んでいます」。片桐さんが呼びかけると、大きな拍手が起きた。

 片桐さん夫妻が、インドで路上生活をしている子どもたちの支援に乗り出したのは、偶然の積み重ねだった。

個人受賞 教育と環境の「爽」企画室片桐学校建設予定地で打ち合わせをする片桐和子さん(左)とローズさん(右)。学校の図面はブロック玩具で作られている=高野聡撮影
 夫妻は、97年3月の定年退職後、ボランティア団体「教育と環境の『爽』企画室」を設立し、途上国の就学支援活動を始めた。バザーなどの収益をNGOを通じて寄付していたが、その活動中、インドで山岳民族を支援するNGO「ニューホープ」の代表、エリアザール・ローズさん(50)を知った。

 98年12月、ニューホープと交流するためのインドツアーに参加。その際、深夜の駅のホームで、布切れにくるまって眠る親のない子どもたちの姿を見た。インドの駅は24時間開いており、家のない子どもたちが住み着く。車内清掃などの簡単な労働で賃金を得たり、旅行者から盗みを働いたりすることで生活を送るのだ。

 「見ちゃった」と片桐さんはその衝撃を語る。「支援の理由は後からいろいろ考えたけど、そんなことはどうでもいい。この子どもたちを何とか助けなければ、という以外に理由はありません」。昭吾さんは「私自身、幼い時に両親を亡くし、養父母に育てられた。その体験が重なりました」と話す。

 「子どもたちが暮らす家が造れないか」。片桐さん夫妻はローズさんに相談した。ローズさんは当時、路上生活の子どものためのシェルター(避難所)を運営しており、夫妻と思いが一致。02年から片桐さん夫妻が資金を援助し、ニューホープが運営する「憩いの村」構想が動き出した。

個人受賞 教育と環境の「爽」企画室片桐片桐昭吾さん
 03年、ヤシやマンゴーの木の生い茂る3万6000平方メートルの敷地をニューホープが取得。その一角に330万円をかけた子どもたちの宿泊施設と調理室が完成した。

 その後も夢は膨らみ続けた。「宿泊施設は男女別にした方がいい」「職業訓練の場もいるでしょう」。7年間で宿泊施設3棟、診療所、職業訓練センター、瞑想(めいそう)室、音楽堂などの建物と農場や広場が完成した。

 建設資金には貯金を送ったが、1年で消えた。その後企業や知人300カ所に寄付を募る要請文を送ったが、逆に「なぜインド支援なのか。新潟にも困っている人はいる」などと批判的な電話が相次いだ。だが夫妻の気持ちは揺るがなかった。

 昭吾さんは警備会社に再就職した。月の半分を徹夜勤務でこなし、給与を送金する。片桐さんは手持ちの衣類をバザーに出してお金を工面した。手元に残すのは、最低限の生活費のみになった。

 宿泊施設には現在、55人の子どもが生活する。片桐さんのあいさつを通訳したアヤカ君(13)もその1人。4歳ごろから駅や列車内で生活し始め、6歳ごろ、走行中の列車から転落、病院で治療を受けたところをニューホープに引き取られた。後頭部には大きな傷が残る。「物理と日本語が好き。いつか日本に行ってみたい」と目を輝かせる。

個人受賞 教育と環境の「爽」企画室片桐
 図書館にはパソコン7台が並ぶ。と、片桐さんの表情が曇った。「約束ではパソコンは9台のはず。なぜ7台しかないの」

 「来週あと2台、到着します」と説明するローズさん。「じゃあ、その2台が来たら、写真を撮って必ず私に送ってください」

 片桐さんは言う。「お金が約束通り使われているかどうかはちゃんと見届けないと。私たちは同じ夢の実現に向かって進むパートナーなんです」

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 一区切りついたはずの支援に、今春、新しい計画が加わった。新潟県内の団体が学校建設への援助を申し出たのだ。現在の学校は、机が足りず、子どもたちが床に座って授業を受けている。

 すぐに設計は固まった。1学年1部屋ずつ8教室。建設費は約1000万円。3年間計600万円を団体が寄付し、残りを今後3年間の昭吾さんの勤務で工面する。完成後は、青年海外協力隊の協力で日本人教諭を確保する計画も進んでいる。

 「そのためには、州政府から学校の認可をきちんと取ってほしい。ローズさん、お願いします」。表情を再び引き締める片桐さん。夢は広がり続ける。

 ◇第一歩は上野駅

 片桐さんは1937年、神奈川県横須賀市生まれ。新潟大長岡分校修了後、小学校教諭に。在職中は新潟県教職員組合執行委員、県女性財団理事などを歴任。昭吾さんは36年、新潟県新発田市生まれ。日本大法学部卒後、国鉄新潟鉄道管理局、東北電力などに勤務。国鉄在職時代の64年、「大学の通信教育でスクーリングを受けた際、帰りの汽車賃に困った経験から」上野駅に「美紀」という匿名で5000円を寄付、「美紀たすけあい基金」として運用された。連絡先は〒950‐2045 新潟市西区五十嵐東2の11の25。電話、ファクスは025・260・0568。寄付は郵便振替、教育と環境の「爽」企画室(口座番号0540・8・31194)へ。

個人受賞 教育と環境の「爽」企画室片桐「子どもの憩いの村」の教室で勉強する子どもたち=高野聡撮影


 ■受賞理由

 インドの地方都市、ビシャカパトナムでストリートチルドレンの支援に取り組み、宿泊施設、職業訓練センター、農場などを整備した。定年退職後の生活を国際ボランティアにささげており「団塊の世代が退職を迎える時代に、一つのモデルケースと見ることができる」と評価された。

 インドの民間団体が活動のパートナー。日本では青年海外協力隊などとの協力も始める予定で、夫妻で始めた活動が大きな輪を広げている。

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 ◇市民レベルの活動支援

 毎日国際交流賞は、市民レベルの優れた国際交流・協力の支援と国際理解の促進を目的に、毎日新聞社が1989年に創設した。外務省が後援、株式会社クボタが協賛する。本社委嘱の選考委員が国内外からの推薦を基に審議して決める。選考委員は、湯下博之(元駐フィリピン大使)、北沢洋子(国際問題評論家)、熊岡路矢(日本国際ボランティアセンター理事)、荒巻裕(近畿大副学長)、平田オリザ(劇作家・演出家、大阪大教授)の各氏と菊池哲郎(毎日新聞社主筆)。

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 ◇10月に表彰式・講演会--大阪

 第21回毎日国際交流賞の表彰式・受賞記念講演会を開きます。
 <日時>10月10日(土)午後2時~4時半
 <会場>毎日新聞大阪本社オーバルホール(大阪市北区梅田3の4の5)
 <受賞記念講演>「日本での難民支援10年の歩み」難民支援協会代表理事、中村義幸さん▽「思い続ければ夢はかなう」片桐和子さん、片桐昭吾さん
 <定員>先着400人。入場無料
 <申し込み>はがきに郵便番号、住所、氏名、電話番号を明記し、〒530―8251 毎日新聞大阪本社事業部「毎日国際交流賞事務局」へ。折り返し入場証を郵送します
 <問い合わせ>同事務局(06・6346・8377=平日午前10時~午後6時)

 主催 毎日新聞社
 後援 外務省ほか
 協賛 株式会社クボタ

(2009年8月24日毎日新聞朝刊掲載)