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第22回毎日国際交流賞 一歩一歩前へ ~中村俊郎さん~

◇中村ブレイス株式会社(島根・大田)社長・中村俊郎さん

 本業の義肢装具づくりを通じた社会貢献に加え、マレーシアの国立大学病院の医師や義肢装具士などとの交流や、アジアの子どもへの義足の無償提供など、古くから企業の社会的責任を果たしてきた。これからの企業活動の一つのモデルになりうると評価された。
 過疎化した古里の活性化につなげたいと、修業先の米国から帰郷して1人で創業。従業員70人の企業に成長させるなど、地域の活性化にも寄与し、世界の問題に地方からかかわり続けている。

 ◇「希望の義足」現地に合わせて


母ロエナさん(左)に付き添われ竹の義足で歩行練習をするアンヘリト君=フィリピン・イロイロ市で2010年7月8日、堀江拓哉撮影
母ロエナさん(左)に付き添われ竹の義足で歩行練習をするアンヘリト君=フィリピン・イロイロ市で2010年7月8日、堀江拓哉撮影
 「見える高さが、違うでしょう」。フィリピン・パナイ島のイロイロ市。「中村ブレイス」社長の中村俊郎さんは、義足を着けた両足で一歩一歩、しっかりと歩くアンヘリト君(11)に語りかけた。アンヘリト君は「おばあちゃんの家に行って、この足を見てもらいたい」。満面の笑みで話した。
 中村さんと、いずれも中村ブレイスで義肢装具士を務める次男・哲郎さん(28)、ベテランの波多野正義さん(57)の3人は、アンヘリト君に義足を届けるために、島根県大田市の世界遺産・石見(いわみ)銀山のふもとからフィリピンにやってきた。
 アンヘリト君は両足と左手の一部が欠損した状態で生まれた。左手はひじの辺りまで、右足はひざの下までしかなく、左足の先もこぶのようになっており、原因は不明だ。自宅はごみ集積場に隣接する集落にあり、一家は豚を飼育したり、ごみの分別をするなどして生計を立てている。
 アンヘリト君は6人きょうだいで下から2番目。小学校へは乗り合いの三輪タクシーで通う。乗り場までは高校生の兄ハーリー君(17)らが背負い、家や学校では、サンダルを左すねに当ててひざを折って歩き、同級生と同じように机を並べて勉強する。
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フィリピン・パナイ島のイロイロ市の地図
フィリピン・パナイ島のイロイロ市の地図
 イロイロ市を拠点に草の根交流活動を続けるNGO「LOOB」(ロオブ)は08年、カンパで手術代と義足代を集め、アンヘリト君に義足を贈った。しかし、成長とともに1年半ほどで合わなくなり、アンヘリト君は元の生活に戻った。昨年、LOOBの語学研修に参加した大学生が、中村ブレイスに1通のメールを送った。「彼に合う義足はないか」という内容のものだった。「彼が再び立って歩けるようになれば」。中村さんはアンヘリト君支援を決めた。
 自宅を訪ね、石こうの包帯で型をとり、一晩乾燥させてできた仮の義足を次の日に試着。母ロエナさん(38)や父ロジャーさん(41)が付き添い、歩く練習をした。学校では、同級生たちがアンヘリト君に肩を貸し、移動を手助けする姿が。中村さんは「彼にとって、本当に大きな一歩。ここに来ることができ良かった」と目を細めた。

自宅で笑顔を見せるアンヘリト君(左)と中村俊郎さん(右)=フィリピン・イロイロ市で2010年7月7日、堀江拓哉撮影
自宅で笑顔を見せるアンヘリト君(左)と中村俊郎さん(右)=フィリピン・イロイロ市で2010年7月7日、堀江拓哉撮影

竹の義足のできばえを確認する中村俊郎さん(右端)とレイナルドさん(左端)=フィリピン・イロイロで2010年7月8日、堀江拓哉撮影
竹の義足のできばえを確認する中村俊郎さん(右端)とレイナルドさん(左端)=フィリピン・イロイロで2010年7月8日、堀江拓哉撮影

友だちに付き添われ歩くアンヘリト君(中央)=フィリピン・イロイロで2010年7月7日、堀江拓哉撮影
友だちに付き添われ歩くアンヘリト君(中央)=フィリピン・イロイロで2010年7月7日、堀江拓哉撮影
 中村さんは米国での修業を経て74年、石見銀山のふもとの実家の納屋を改造して1人で創業。義肢装具メーカーとして日本を代表する企業の一つに育て上げた。
 一方で、マレーシアの国立マラヤ大学でボランティアの技術指導をしたり、奨学金を設け若い音楽家を地元に招くなど、海外との交流を続けてきた。97年には火災で両足を切断したモンゴルの少年に義足を無償提供した。
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 現在、風呂敷の「包む」という考え方に着想を得た義足の商品化に取り組んでいる。足の切断面と義足をつなぐ専用器具を簡素化し、費用を抑えることを目指す。シリコンを張り付けた布で切断面を包み、義足にはめ込むという考え方で、この方法だと、切断面を受ける側も従来より簡素化できるという。
 今回、フィリピンでは現地調達できる材料を生かす、という新たな挑戦の第一歩も踏み出した。中村さんらは、現地の義肢装具士で自身も義足を使用するレイナルドさん(52)や竹細工職人に、このシリコンの布と、竹を材料にした義足の考え方を伝えた。
 竹の義足の歩行練習をしたアンヘリト君も「軽くていい」と話し、レイナルドさんは「竹ならこの国にはたくさんある。より多くの人が、再び歩くことができるようになるかもしれない」と期待した。
 中村さんは「竹細工職人のように技術を持った人が、地域で子どものために義足を作ってくれたらうれしい」と目を輝かせる。「これは"希望の足"。日本人の『やさしさのネットワーク』で世界各地に広げたい」。新たな夢を、追い続ける。


 ◇事故を機に「人の支えに」

 中村さんは1948年、島根県大田市大森町生まれ。県立高校卒業後、京都の義肢製作所に入社した。働きながら近畿大短期大学部商経科を卒業し、72年に渡米。カリフォルニア州の義肢装具メーカーや、カリフォルニア大学のメディカルスクール、リハビリテーション病院で義肢装具を学んだ。渡米の半年後、交通事故で瀕死(ひんし)の重傷を負い「人に喜ばれることをし、人の支えになりたい」という思いを強めた。
 「活性化につながれば」と74年に郷里で中村ブレイスを創業。「ブレイス」は「支える」の意味で、82年に株式会社化し、社長に就任した。92年から、マレーシア国立マラヤ大学病院客員講師を務める。本社は〒694―0305 島根県大田市大森町ハ132。電話は0854・89・0231、ファクス0854・89・0018。
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 ◇10月に表彰式・講演会--大阪・梅田
 第22回毎日国際交流賞の表彰式・受賞記念講演会を開きます。
 <日時>10月16日(土)午後2~4時
 <会場>毎日インテシオビル4階大会議室(大阪市北区梅田3の4の5)
 <受賞記念講演>
     ▽「コミュニティーを通して見える共通の課題」ソムニード代表理事、和田信明さん
     ▽「世界遺産 石見銀山の地から人々の支え(ブレイス)ができること」中村ブレイス代表取締役社長、中村俊郎さん
 <定員>先着150人、入場無料。
 <申し込み>はがきに郵便番号、住所、氏名を明記し、
          〒530―8251 毎日新聞大阪本社事業部「毎日国際交流賞事務局」へ。
          折り返し入場証を郵送します。
 <問い合わせ>事務局(06・6346・8377=平日午前10時~午後6時)

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主催:毎日新聞社  後援:外務省ほか  協賛:株式会社クボタ

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(2010年8月30日東京朝刊)