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文化

時空を超えた東西の技「モザイク美の世界」ヴェネチアン・グラスと里帰りした箱根寄木細工

◇再び響き合い

 ◇4月20日(土)~11月24日(日) 神奈川県箱根町・箱根ガラスの森美術館

 「―時空を超えた東西の技―『モザイク美の世界』ヴェネチアン・グラスと里帰りした箱根寄木細工」展が20日から、神奈川県箱根町の箱根ガラスの森美術館で開かれる。19世紀、古代ローマの芸術をよみがえらせたベネチアのモザイク・グラス。同じ時期、明治の箱根で隆盛を迎えた寄せ木細工は、輸出先の西欧人の心をつかむ。ガラスと木――。それぞれが織りなす多彩なモザイク美の世界が、約1世紀を経て、再び箱根の地で出合う。【三枝泰一】

 ◇「双子」の職人技

 モザイク・グラスと寄せ木細工。この二つは本当によく似ている。
 まず、その工程だ。モザイク・グラスは、「カンネ」と呼ばれる色あざやかなガラス棒が基礎だ。これを細かいガラス片にして敷き詰めたり、棒のまま粘土に巻きつけたりして成形し、溶着する。色ガラスの組み合わせによって、さまざまなデザインが生まれる。
 一方の寄せ木細工。基礎となるさまざまな木片をつなぎ合わせてブロックを作り、一定の大きさに裁断。天然の木目や色の違いから細密な文様が生まれる。その表面をカンナで削り、箱などに張って製品にする。ミリ単位の仕事だ。
 ミクロの部分から全体を構成していく過程と、そのデザイン思考。この職人術は、まるで「双子」のようだ。
 その起源にも注目したい。モザイク・グラスの発祥は古代メソポタミアといわれ、東洋に伝わった。寄せ木細工の起源も約4000年前のシリア周辺といわれ、後の時代、シルクロードを通じて日本に届いた木画が奈良・正倉院に現存する。
 東西文化の「邂逅(かいこう)」。この意味でも、二つは重なる。

 ◇立役者モレッティ

 紀元前1世紀~紀元後3世紀ごろ、ローマ世界で作られたモザイク・グラスは「ムリーネ・グラス」と呼ばれ、しま模様や幾何学模様、細かい花の模様などで知られる。
 19世紀のベネチアでこれらが復元された背景には、当時の考古学ブームがあったようだ。18世紀半ばにイタリアのポンペイ遺跡が発見されて以降、欧州では古代文化への関心が高まっていた。ナポレオン戦争終結後の当時は、ガラス産業の復興期でもあった。その追い風を生かしたのがビンツェンツォ・モレッティ(1835~1901)というガラス技術者だった。
 彼は、工房の共同経営者だった英国の考古学者と、地中海世界の各地で出土したガラスを研究。工程の複雑さから途絶えてしまっていた古代の技術を復興、さらに改良し、皿や鉢などを次々に復元する。21世紀の現在まで続くモザイク・グラスの商業化の礎を築いた。

 ◇明治の箱根で

 箱根で寄せ木細工作りが始まったのは江戸時代後期といわれる。その精緻な技術を伝える家具や小物類の多くは、明治の開国以降、西欧に輸出された品々だ。大名や豪商らに愛された職人たちの美的センスは、日本を訪れた西欧人の心をもとらえたようだ。
 研究家でコレクターとしても知られる金子皓彦(てるひこ)・元東京女学館大教授は約10年前、ロンドンの旧家で、寄せ木の「ライティング・ビューロー」(書き物机)を見つけた。3代前のこの家の主人は、明治の日本人の貿易商で、英国人女性と結婚、ロンドンに移り住んだ。この机はその時以来のもので、家の人たちは「宮ノ下」と呼んで、この時も愛用していた。宮ノ下は、箱根の寄せ木産地の一つ。明治の初めから西欧人相手のホテルが建つ温泉地でもある。当時の職人たちは横浜に近い地の利を生かし、西欧人の好みにかなう多様な製品を手掛けた。
 「扉を外に開こうとする時代の動きに、職人たちは見事に応えていた。100年以上たったロンドンの地で、そのことを実感した」(金子氏)
 当時の活況をうかがわせる写真がある。1897(明治30)年に箱根湯本の寄せ木細工の商店を写したものだ。ここに、今回出品されているチェステーブル、家の形をした変わり箪笥(たんす)、飾り棚の3点が写っていることが、金子氏の調査で確認された。寄せ木文様、鶴や鳳凰(ほうおう)、朝顔などの象眼、西欧人が喜びそうな「からくり」仕掛け......。これらの品々には、職人たちの持つ粋な感性が随所にちりばめられている。
 開港後の横浜から多くの外国商館員が箱根を訪れ、これら大型家具を発注、貿易ルートが確立する。1873年のウィーン万国博覧会でも紹介され、ここに絶頂を迎える。

 ◇新たな飛躍に期待

 モザイク・グラスと寄せ木細工。その歴史を振り返ると、もう一つの視点が見えてくる。
 いずれもその工程は複雑で高度な技術が要る。古代ローマのモザイク・グラスはそれが原因で途絶えていたが、1500年以上の時を経て、ベネチアの職人たちの技術と時流を読む感性とで、よみがえった。
 一方の箱根寄せ木細工。明治の隆盛から約150年。新たな飛躍はあるのか。金子氏は、欧州の服飾ブランドのデザインに寄せ木文様が影響を与えている歴史を指摘。「素晴らしい素地がある。時代のつぶやきをキャッチし、さらに踏み出してほしい」と語る。
 二つの出合いは、私たちを鼓舞しているのかもしれない。

 ◇約120点を公開します


「モザイク・グラス坏」(ムラーノ・ガラス美術館蔵)。1世紀。ガラス棒を溶着して制作。ダルマチア地方(現クロアチア)で出土

「モザイク・グラス皿」(ムラーノ・ガラス美術館蔵)。紀元前1世紀後半~紀元後1世紀初頭。イタリア北部で出土

「モザイク・グラス皿」(ムラーノ・ガラス美術館蔵)。1880年ごろ、ビンツェンツォ・モレッティ制作。花模様のガラス片を敷きつめた

「ビンツェンツォ・モレッティのモザイク画」(ジュージ・モレッティ氏蔵)。1886年制作の本人の肖像

「ライティング・ビューロー」(金子皓彦氏蔵)。明治20~30年ごろ制作の書き物机。高さ181センチ。拡張テーブルを引き出すと幅は241センチにもなる

「チェステーブル」(金子氏蔵)。1897年撮影の箱根湯本の商店の写真で確認された製品の一点。4脚は猫脚で、西欧人のデザインによる注文らしい

「飾り棚」(金子氏蔵)。1897年撮影の箱根湯本の商店の写真で確認された製品の一点。日本家屋や太鼓橋などで、ジャポニズムを演出

1897年撮影、箱根湯本の寄せ木細工商「田中庄吉商店」(金子氏蔵)
開催日 4月20日(土)~11月24日(日)
日時の詳細 午前9時~午後5時半(入館は同5時)
会場 神奈川県箱根町仙石原940の48 箱根ガラスの森美術館
料金 大人1300円▽大高生1100円▽小中生800円。
各200円引きの前売り券をローソン、セブンイレブン、ファミリーマート、サンクス、ミニストップで、会期終了まで販売します。
問い合わせ 箱根ガラスの森美術館 0460・86・3111 http://www.ciao3.com/
備考 この展覧会の図録を販売します。160ページ、B6判、オールカラー、1800円(税込み)。通信販売は、郵便番号、住所、氏名、電話番号を明記し、〒250―0631 神奈川県箱根町仙石原940の48、箱根ガラスの森美術館図録販売M係宛て、現金書留で代金2300円(送料含む)を送付。
主催 毎日新聞社、ベネチア市立美術館総局、箱根ガラスの森美術館
後援 在日イタリア大使館、イタリア政府観光局(ENIT)、イタリア文化会館、箱根町