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★生みの苦しみ越えて大輪――受賞者の横顔と選評
進取の気性、情趣に富んだ作風で知られる織田作之助(1913~47)を顕彰する第25回織田作之助賞(大阪文学振興会、関西大学、毎日新聞社主催)の受賞作が決定した。受賞者へのインタビュー、選評を紹介する。 最終選考会は昨年12月、大阪市北区の毎日新聞大阪本社で開かれた。大賞の選考委員は河田悌一さん(関西大学長)、河野裕子さん(歌人)、辻原登さん(作家)、芳賀徹さん(京都造形芸術大名誉学長)。最終選考には6編が残り、議論の末に受賞作を選んだ。青春賞の選考委員はいずれも作家の玄月さん、澤井繁男さん、堂垣園江さん。最終選考には5編が残り、青春賞1作、佳作1作を選んだ。【有本忠浩】 ★大賞 ◇波乱の女性記、4年かけ大海原へ――玉岡かおるさん(52) 大賞に決まった玉岡かおるさんは、87年に『夢食い魚のブルー・グッドバイ』(神戸文学賞受賞)でデビューした。以来、送り出した作品の舞台は大半が関西。 「『お家(いえ)さん』は、生みの苦しみが大きかった分、関西を代表する作家、織田作之助の名を冠した賞が頂けることを素直に喜びたい」と語る。 受賞作の舞台は開港間もない神戸。主人公は鈴木よね。明治、大正、昭和初期を背景に、この地を拠点に世界に名をはせた巨大商社「鈴木商店」の頂点に立った女性だ。商いの世界では女主人の最上級の呼び名「お家さん」として慕われたよねの目を通し、巨大商社の盛衰、男たちの奮闘と挫折、世の移り変わりが播州弁を交えながら描かれている。 「歴史小説が好きですが男性の目で男性の歴史をつづった物語が多い」。鈴木商店を題材にした城山三郎の小説『鼠』も、表舞台に立つのは大番頭の金子直吉ら男たちだ。 よねに光を当てようと船出したものの、「人となりを示す資料がなくて偉人伝にしかならなかった」。原稿を3回ボツにして、4回目で荒波をかいくぐり大海原に出た。完成までに4年を費やした。 「よねさんが、私と同じ播州出で播州弁を話していたことに気づいてから航路が開けました」と振り返る。 波乱に満ちた女の一生の物語を支えるのが、語り口の多様さや各章の冒頭に添えられた短歌。選考委員からも女性の造形や語り口の手練が称賛された。 鈴木商店なき後の神戸を舞台にした小説の構想を今練っている。脂の乗った作家の次の作品が楽しみだ。
◇中3で文章開眼、文学賞次々に――小笠原由記さん(16)=立命館慶祥高1年 「受賞の知らせを聞いた時、イタズラでは?と半信半疑でしたが、やがてうれしさがこみあげてきました」。中学3年の夏、学校祭で演劇の脚本を担当して以来、文章を作る楽しさを知った。 北海道ゆかりの作家、有島武郎を顕彰する「有島青少年文芸賞」の優秀賞を07、08年と2年連続で受賞。将来が楽しみな若手だ。「受賞作は、話の流れを優先し人物設定は後でした。ソファに寝転んでいるとアイデアが浮かんできます」 高校では吹奏楽部でサックスを担当。ジャズ、クラシックを聴くのが好きで、受賞作にも片りんが見える。 ★佳作 ◇本格小説に意欲――深山あいこさん(24)(本名・中村友紀) 「公募ガイドで賞を知りました。佳作の連絡を頂き、私以上に母が大喜びでした」。小学生のころから江戸川乱歩や椋鳩十の作品を読んでいた。 作品の最初の発想は、「思い出を土の中に埋めることだったが書いているうちに、変わっていって......」と振り返る。今は宮部みゆきさんの本に凝っている。「これから本格的に小説に取り組んでみたい」と話す。 ★選評(大賞) ◇播州弁、人間描写が見事――関西大学長・河田悌一さん 今回も力作ぞろいだった。大賞に選ばれた玉岡かおるさんの『お家さん』は上下2巻650ページの書き下ろし作品。兵庫県に生まれ今も住まいする作者の播州弁の言葉遣いの見事さ。鈴木商店の女主人、鈴木よねをはじめとする人間群像の面白さと描写の見事さ。神戸、大阪、関西が活力と魅力をもっていた時代を描いて、読者をわくわくさせてくれる。 大賞を競った平野啓一郎さんの『決壊』も上下2巻784ページの大作。猟奇的殺人事件の被害者と妻、その犯人かと疑われるエリートの兄、認知症のはじまった父親、登校拒否の高校生(犯人)といじめ。現代社会の悲劇が、これでもかこれでもかと書かれる問題作。 織田作之助なら、案外この作品に大賞を与えたかもしれない。 ◇テンポよく生き生きと――歌人・河野裕子さん 明治、大正、昭和の日本経済の動向をも決した巨大商社「鈴木商店」。夫亡き後、そのトップの座にあって「お家さん」と尊称された鈴木よね。彼女の生涯をテンポのよい筆運びで一気に読ませる。650ページの大作が書き下ろしであることにも感心した。ミセは表の店。オクは店の裏方。オクでミセを支える女性たちを生き生きと描いている。針仕事の場面が随所に出てくるが、細かい描写は女性ならでは。ただ、鈴木商店の屋台骨である男性の人物造形にややもの足りなさを感じた。 『風景と実感』は一般にも読める短歌の評論集。丁寧に歌を読み味わいながら、ことばが、どのように身体性やリアリティーを獲得するのかを、実作者らしい筆致で粘り強く考察している。 ◇凡百しのぐ語りの手練――作家・辻原登さん 『お家さん』の受賞に喝采(かっさい)を送りたい。明治初年から昭和にかけて、神戸に近代日本をけん引した巨大商社があった。それをのれんの後ろで支えたのが、鈴木よねという一人の女性であった、という設定だ。「事実」の堆積(たいせき)という制約を逆手に取ることで物語性を獲得した作者の手練が、凡百の「女の一生」ものをはるかにしのいだ。工夫の一つが三層構造の語りだろう。プロローグとエピローグの「わたし」、主人公よねの「私(わて)」、そして作者による俯瞰(ふかん)法語り。 『風景と実感』をむさぼるように読んだ。韻文と批評散文のコラボレーションが遠い所へ誘い出す。今回は小説作品1作受賞と決めて選考に臨んだので、強く推さなかったが、優れた作品であることに変わりない。 ◇民衆感覚に沿う歴史観――京都造形芸術大名誉学長・芳賀徹さん こういう面白い小説は本当に困る。ただでも慌ただしい歳末の日々、私は他のすべてをなおざりにして、『お家さん』の上下巻650ページに読みふけってしまった。 日清戦争のころから第一次大戦後にかけて、日本の国運上昇と軌を一にして世界に交易網をひろげた鈴木商店――その盛衰の概略は歴史参考書の数行によって知っていた。だが、その約50年の歴史のうちに、「お家さん」鈴木よねや大番頭の金子直吉を中心に、これほどに分厚く熱く英雄的な物語が営まれていたとは知らなかった。 作者玉岡かおるさんの着眼がいい。主人公よねの女播州弁が同時代史にぴったりと肌を合わせてゆくのがいい。その歴史解釈が当時の日本民衆の実感に沿おうとしているのがさらにいい。 ★選評(青春賞) ◇愛着を持ち推敲重ねて――作家・玄月さん 応募総数が年々増えてレベルが上がってきたのは確かだが、そうなっても目につくのが推敲(すいこう)の足りなさ。応募する動機はさまざまだろうし時間の制約もあるだろうが、自分の書いたものに愛着を持ち、もっともっと読み直さなければならない。 最後に残った「Innocent Summer」と「ユメノシマ」のうち、私は後者を推した。作品に手を入れた跡がうかがえたからだ。前者は才能を感じさせても、その点が不足していた。 ◇未熟ながら作品に勢い――作家・澤井繁男さん 今回は本賞と佳作の2本立てとなったが、差はほとんどないといってよい。本賞の受賞者はまだ16歳という若さで、原稿の推敲も十分になされていないし、つじつまの合わない個所も散見した。ただ佳作の作品よりも勢いがあった。二つの優劣を決めるにあたって、青春賞というものが必ずしも作品の完成度にあるのではなく、未熟ではあるにせよ奨励賞の意味を持っていることに気づいた。「Innocent Summer」は、そうしたものを感じさせる作品だった。 ◇粗削りでも才能が突出――作家・堂垣園江さん 完成度を求めるか、可能性を取るべきかが焦点となった。3回目を迎え、今回はどれも悪くなかったが、特によかったわけでもない。それでも、「Innocent Summer」を推したのは、今は粗削りでも、伸びてほしい才能が他の作品に比べて突出していたからである。 候補作のいくつかは、そこそこのレベルでありながら真似(まね)小説に読めた。ヘタでいい。オリジナルを書いてほしい。そして題材を練ること。どの作品も、心に伝わってくるものがない。 ★織田作之助賞の最終候補作品 <大賞> 玉岡かおる『お家さん(上・下)』(新潮社) 吉川宏志『風景と実感』(青磁社) 岩井三四二『南大門の墨壷』(講談社) 有川浩『阪急電車』(幻冬舎) 綾辻行人『深泥丘奇談』(メディアファクトリー) 平野啓一郎『決壊(上・下)』(新潮社) <青春賞> 瀬戸俊平「53円男は自転する」 福徳秀也「そのジェリービーンズは食べたくない」 神山智「おくりもの」 小笠原由記「Innocent Summer」 深山あいこ「ユメノシマ」 (2009年1月10日毎日新聞大阪朝刊掲載) |







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