≪ケース1≫
私たち夫婦は、姑(82) と同じ家の1、2階に分かれて生活しています。姑は3年前に舅がなくなってからお金に執着するようになり、「お金を盗まれた」とそうした事実がないのに大騒ぎしました。最近はくつ下やパジャマが「無くなった」と言います。どう対処したらいいのでしょう。=福岡・女性
≪ケース2≫
義母(79) は義父と2人暮らしですが、被害妄想がひどく「泥棒が来る」と言つてカギを取り替えてもらう騒ぎにまで発展します。このため、義父母の口争いも絶えません。=東京・女性
≪ケース3≫
妹夫婦と九州に住んでいる父(80) は、妹の夫がリストラされ金銭的に困っていることと関係あるかどうか分かりませんが「婿が金を盗む」とか、「婿が物を盗む」などと言います。このため、妹がノイローゼ気味です。=大阪・女性
妄想は明らかに間違った判断や考えのことを言いますが、本人はそれを正しいと確信しているため、さまざまな問題が起こります。周りにいる人は、本人の話が明らかに違っているので事実を言いたくなりますが、本人は確信していることを否定されるわけですから、周りにいる人をを非難します。
非難された人は余りにも理不尽なことにストレスや怒りを感じてしまいます。これらが度重なると介護者は介護負担を感じたり、理解していてもついつい注意したり大きな声を出したりしてしまいます。
●もの盗られ妄想
ケース1は「もの盗られ妄想」で、初めはそれがお金等の貴重品だったのに、だんだん身の回りにある靴下などの置き忘れやしまい忘れから起こる妄想で、本人は物忘れの自覚がないため、身近で介護する人を疑うようになり、トラプルの原因になります。
かかわり方としては、ものを盗られたと本人が言っているのですから、盗られたと言う“事実”を受け入れて一緒に探します。この場合率先して探し出すのではなく、お手伝いという立場で、あくまでも本人に探しでもらう姿勢を忘れてはなりません。
手伝う時には本人の持ち物には触れないようにします。なぜならば、「疑われたので、探すふりをして元の場所に戻した」と言われないためです。自分が大切にしているものは、当然他人も大切なものだと思っている場合が多いようです。また、自分自身で探しているものを見つければ、誰かに盗られたという感覚が薄れ、自分がもしかしたら置き忘れたのかもしれないと思うきっかけになるかもしれません。
●一緒に探す
ぼけが進むと財布や通帳・印鑑・貴金属などの貴重品だけでなく、本人の入れ歯やメガネなどの身の回り品など盗られることなど考えられないものでも、本人が大切だと思っているものを「盗られた」と言います。本人は真剣に盗られたと思いこんでいるのですから「誰も盗るわけないでしょう」と言いたいところですが、「それは大変ですね」と相手の気持ちに添って探し、出てきても“やっばりしまい忘れたんじゃないの゛と思っても「大事なものが見つかってよかったですね」と言いながら、しまいこむ場所などを観察しましょう。
●被害妄想
ケース2、3は「被害妄想」で、ぼけの高齢者は不安や焦燥感が強かったりすると被害妄想が見られます。
初期の痴呆では、自分がぼけて分からなくなるのではないかと不安になったり被害的になったりします。認知力や記憶力が低下してきたため起きたとは思わず、痴呆症状を正当化すために周りを責めることになってしまう傾向が見られます。また、被害的言動は家族から愛情をかけられないと出る場合もあります。
介護者は、日々介護で疲れていることでしょうが、じっくり心を傾け話しを聞いて安心感を持てるようにすることも一つの方法です。
回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学