認知症110番

暴力

≪ケース1≫
 母(79)は、老人性痴呆と診断され薬を服用しています。3カ月前、父が病気で入院、一時は命が危ぶまれましたが回復し1カ月後に退院しました。そのころから、母が暴力的になり、父をかばったりすると娘の私を父の愛人と思ってか、「この家には居られない。裁判を起こす」などと言います。対処法を教えて下さい。=愛媛・女性

≪ケース2≫
 軽度のアルツハイマーと診断された母(65)は、立って排尿するなど性格も言葉も男性になりきっています。私の妻と娘には優しいのですが、男性である私や私の息子に対しては殴りかかってきます。どのように対応したらいいでしょうか。=東京・男性

≪ケース3≫
 要介護認定3の夫(71)はテレビを見ると興奮し、自分のほおや周囲のものをたたきます。私もたたかれ、デイケアでは他人もたたきました。ショートステイを申し込んだら、興奮すると夜、対応できないと断られた。=宮城・女性

【回答】寄り添うだけで落ち着くことも

 痴呆の問題行動の中でも暴力行為が出てくると、介護者はどう対応していいか深刻になってしまうことが多いものです。 ●体調のチェックを

 1、2、3のいずれのケースも、病気が原因でそのような症状になっていることを理解しましょう。暴力と一言でいいますが表れ方はさまざまです。苦痛や不快から生じていることがありますから、体調をチェックしてみましょう。便秘や膀胱に尿がたまっていないか、体温や血圧に異常はないかなどを観察して、当てはまる項目があったら速やかに取り除きます。体調不調でも自分で適切に伝えることができない場合が多いので、常に心身の状態を把握しておくことは大切です。

 頼りにしていた夫の突然の入院を理解できず、入院で妻のそばにいなかったことを、愛人の所に行っていたと勘違いしている場合もあります。状況がわからずに混乱し、娘を夫の愛人と疑っているかも知れません。また、自分自身が誰なのか、想像の中にすんでいるのかもしれませんね。

 お母さんの言っていることを否定せず、ストレスになるとは思いますが、深呼吸して心のゆとりを持ち、まずは聞き入れて落ち着いたところで、話題を変えて関心をそらしてみてはいかがでしょうか。殴りかかってくる場合であっても、落ち着いてかかわりましょう。気持ちがそれれば、なぜ怒っていたのかも忘れてしまいます。だんだん怒りが増して、危険が伴うようであれば、少しの間その場を離れて様子を見てください。それでもおさまらないようであれば第三者を入れるのもひとつの方法です。

●独りで抱え込まないで

 3のケースは、テレビと現実の区別がつきにくいのですね。どのような場面の時に興奮するかを観察しておきましょう。デイケアやショートステイでもたたいたり、興奮すると対応が難しいとのことですが、痴呆専門のサービスを行っているところをケアマネジャーに相談したり、地域のインホーマルなサービスなども紹介してもらってはいかがでしょうか。独りで抱え込まないようにすることが大切です。

 今までは自分の身の回りで起きていたことが理解できていたのに、わからなくなり動揺しているのは痴呆性老人本人でもあるのです。身体面や精神面についても自分からは訴えることもできず、苦痛や不快感を表現することができないので、怒りや暴力・暴言という形になっている場合もあることを理解しましょう。この状態は時間の経過と共に薄れてきます。

 そう入っても、このような状態は繰り返され、介護者はその都度、冷静に聞こうと努力しても、興奮したり、暴力を振るわれると、介護する自身をなくしてしまいます。介護する人は誰もが経験することなのです。本人もどうして良いかわからないのです。しかし、そばに寄り添っているだけで落ち着くことは多いものです。

 本人が支持されている、愛されているという気持ちを持てるようにすることが重要です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学