認知症110番

認知症への不安

≪ケース1≫
 最近、人の名を忘れたり、1万円札と5000円札を間違えたりすることが多くなりました。また、仕事上のミスも多くなり上司に怒られたりします。このため、周囲の目が気になり、対人恐怖の傾向も出てきました。今の仕事は好きなのですが、辞めようかどうか、悩んでいます。=女性(53歳)

≪ケース2≫
 60歳を過ぎてから、物忘れが気になっています。最近は、探し物ばかりしています。夫の死後、財産処理など山積していますが気力がなく、食事を作ることだけで一日が終わってしまいます。子供もなく、独り暮らしで今後が不安です。=女性(68歳)

≪ケース3≫
 同じ敷地に子供家族がいますが、一人で暮らし、食事、入浴などすべて自立している。しかし、人の名は忘れる、冷蔵庫から取り出すものを間違える。人付き合いが大変でゲートボールもやめた。車の免許を返上しようかどうか迷っている。=男性(86歳)

【回答】自分の生活は自分の意志で

 人はだれでも加齢と共に身体や心身機能が、衰えてくることは自然の摂理です。ケース1の方は、人名やお札の間違えがあると言うことですが、認知症の人は自分が間違っていることをすっかり忘れ気づかないものです。人の名がなかなか思い出せないのはある程度年を重ねた人の多くに見られるものです。認知症の始まりかとご心配でしょうが、あまり気になさらなくてもよいのではないでしょうか。

 ケース2の方は、物忘れが気になっておられるようですが、夫の死後、急に新たな生活になって、喪失感が大きくまだ落ち着かないのではないでしょうか。

 ケース3の方も、一人暮らしで、日常生活が変化なく過ぎ、人とも話をしないでいると確かに今まで覚えていたことも忘れて、自分自身に自信がなくなり、人と接する時に、思い出せなくて他人に嫌な思いをさせないだろうかと気を使うことが重荷になっているのではないでしょうか。

●認知症予防10カ条

 認知症は原因不明ですし、確実に防ぐ方法はありませんが、「財団法人認知症予防財団」では、日常生活で心がけることが望ましい「認知症予防10カ条」を提案しています。それは、(1)塩分と動物性脂肪を控えたバランスよい食事を(2)適度に運動を行い足腰を丈夫に(3)深酒とタバコはやめて規則正しい生活を(4)生活習慣病(高血圧、肥満など)の予防・早期発見・治療を(5)転倒に気をつけよう、頭の打撲はぼけ招く(6)興味と好奇心をもつように(7)考えまとめて表現する習慣を(8)こまやかな気配りをしたよい付き合いを(9)いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに(10)くよくよしないで明るい気分で生活を、というものです。どの項を見ても納得するものだと思います。

●まず外へ

 自分自身が自らの意志で判断し実行することが大切です。毎日万歩計をつけ「今日は何歩歩こう」「友人と○○まで散歩しよう」などと具体的な目標を立てたり、テレビを見ながらコマーシャルの間に手足の運動をしたり、あるいはボランティアやカルチャースクール、趣味のグループでの活動など人と接したりして知的刺激を受けることもよい方法です。

 体は心が動かないとスムーズに動きません。心の触れ合いが大切です。一人暮らしで家の中に閉じこもっていないで、気分転換のためにも外の空気を吸ってください。散歩の途中で他人に自分から勇気を出してあいさつをするだけでも気分がよいものです。

 あまり理屈や他人がどう見るかなど気にせず、自分の身近な所から気軽に実行しましょう。他人は何もしてくれません、自分の生活は自分の意志で少し変えてみましょう。意識を変えるだけで生活は活性化してきます。ぼけになりたいと思う人はいません、自分から日々の生活の中で心がけることが、ぼけへの不安を解消させることにつながると思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学