認知症110番

介護認定

 痴呆の義父(75歳)を介護している長男の妻です。義父は身体は健康ですが、痴呆のためチグハグな言動があります。でも、あいさつも普通にするし、話も少しであればそれなりに通じるので、一見すると全く普通の高齢者に見えます。

 しかし、生活を共にしていると、イライラすることが多い。夫は仕事が忙しく義父の痴呆状態に「年だから、しょうがないよ、お袋がいなくなって寂しいのだから」と寛大で、理解しようとしません。外に出ている子どもは、休みに帰ってくるだけで、時々しか会いません。このときは、普通の会話が成り立ち、すぐに帰ってしまうのでそれほど困ることがないので、あまり重大に考えていません。

 先日、電話が鳴り出てくれたので、受話器を置いた後、「だれから」と聞いたら、黙っているのです。思い出さないようでした。また、お湯を沸かそうとして火をつけたのを忘れたりします。 少し刺激があったほうがよいと思い、介護保険を申請してサービスを利用しようと思いました。訪問調査に来たのですが、義父がしっかり答えるので、調査員は痴呆であることがわかりません。後日の判定は非該当でしたが納得がいきません。=神奈川・女性(47歳)

【回答】日常生活で苦労していることをメモに

接する時間が短い人には理解できない

 義父の痴呆で、貴方の困っている状態が周りの人に理解されていないのですね。特に初期のころは問題行動がそれほどはっきりしているのではなく、普通に生活をしているので分かりにくいのです。しかし、介護者は予測しない困った行動がときどき起きるから悩み心労が重なるのです。そばにいるから分かるのですが、接する時間の少ない人には、そのチグハグな行動を目の前で見ていないので理解できないのです。分かってもらえない気持ちが、介護者の負担感を重くするのではないでしょうか。

 痴呆があるからといっても、生活全体が分からなくなるのではありません。日常生活はいままで通りできるので、物忘れが原因で生活に支障があっても見過ごされてしまうのが一般的な傾向です。記憶の障害は、新たに覚えることができないので、電話には出られるが話した内容は忘れてしまうのです。ガスもつけたことを忘れてしまうのです。これも加齢に伴って起きる現象とも似ているので判断しにくいし、身内であれば、痴呆の症状と認めたくない気持ちがあると思います。

 今回デイサービスやデイケアを活用して、人との交流を図ろうとしたことはとてもよいことですね。せっかく介護保険を申請したのに非該当ということは、訪問調査時に本人が調査員の質問に答えられたからなのだと思います。その日の調子にもよりますが、初めての人で長時間でなければ、ある程度受け答えができるのですよね。そのために、調査員はその姿から痴呆があることを感じなかったのでしょう。そばにいても、本人が「できます」と言っていることを否定することは難しいですよね。調査項目の第7群の問題行動の質問は、日常生活において問題となる行動について、過去1カ月間に、あるかどうかを評価する項目で、本人を前にしては事情を説明しにくいことは事実です。たとえば、火の不始末は、日ごろの状況を基本的に本人への聞き取りにより判断します。日常生活への支障は、本人・介護者の情報を総合的に勘案し、周囲に与える影響により判断することになっていますが、実際では、火の不始末がないように見守りをして注意を払っているから、なんとかなっているのだと思います。常にどのような行動をするのかを見守っていることが、介護者としては大変なのですよね。心配で家を空けられない状態や目を離せない状態があるのですから、調査員にそのことを伝えたいが、本人がいるところでは言い出しにくいと思います。

 実際には、毎日緊張しながら見守っているから生活ができている状況だと思いますので、そのことをメモなどにしておくと、口で言わなくても分かってもらえる材料になると思います。忙しくてそんな暇などないと言われそうですが、日々の生活の中で苦労していることをきちんと知らせることも大切なことです。記録するときは状態やかかわった時間などを簡単に書いておくと良いでしょう。

 介護保険のサービスが利用できない場合は、老人福祉法で行っている生活支援型のデイサービスがあります。費用は介護保険と同じで1割負担です。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学