認知症110番

会話

 老夫婦2人暮らしです。夫(72歳)にはぼけ症状があります。話そうとしても、なかなか言葉が出なくて、イライラしている様子が最近頻繁に見られます。このままでは、言葉を忘れてしまうのではないかと不安です。子どもは2人います。県外に住んでいて年に数回顔を出してくれます。時々、電話をかけてきますが、夫は受話器を持つものの、うなずくだけで言葉は出ません。それでも、電話の声だけでも嬉しそうな表情はしています。

 なるべく言葉をかけるようにしていますが、話し好きだった夫が、好きな話もできなくなっていく様子を見るだけで涙が出てきます。何か工夫はないのだろうかと思っているのですが、日が過ぎてしまうばかりです。ぼけがあると、サービスもなかなか利用できないと聞いたことがあるので、介護保険は申請していません。これからもっとひどくなるのか、気になります。どのようにすればよいのか途方に暮れています。病院には定期的に通院しています。=神奈川県・女性(70歳)

【回答】話に詰まっても待ってあげて

 話し好きなご主人と会話ができなくなっていくことは、妻としてもとても苦しいですね。なんとか話しかけておられるようですが、会話をするときに、どのようになさっておられるのでしょうか。話をするときの基本は、話そうとするご主人の目を見て聞こうとする姿勢が大切です。言葉に詰まってもゆっくりと待ってあげて下さい。そして、言葉がつながらないようであれば、今までの会話の中から、何を話そうとしているのかを探って話が続けられるように、声をかけてみましょう。少々話の内容がズレてもそのまま聞いて、時々、わかっていることを知らせる動作をしたり、手を強く握ったりして安心して話せる雰囲気を作りましょう。

 言葉も大切ですが、“目は口ほどに”のたとえがあるように、目の動きや表情は言葉以上に伝えるものがあります。また、会話の途中で「ずっと前に旅行にいったとき…」と、その後の言葉が出てこないときなどは「それで」と質問したくなりますが、話を先に進めようとするのではなく、時間のゆとりをもって、「そう、一緒に旅行にいったわね」などと応えることで、元の話に戻ることができます。どんどん会話を進めていくというより、“会話をしている今”を楽しむと考えたほうがよいと思います。

 努力を重ねておられても、会話の能力は衰えていきますが、少しでも現状が保てるような配慮が必要です。視力や聴力はどうでしょうか、もう一度確かめましょう。話をするときの状況はどうでしょうか、テレビなどで気が散ることはありませんか、気が散らないように静かな環境をつくりましょう。また、話がそれても心を落ち着けて優しい眼差しを忘れないで下さい。ご主人の気持ちが安定することが大切なのです。さらに、言葉をわかりやすく、はっきり、ゆっくりし、一度に2つ以上のことは言わない。たとえば、「お茶を飲んでから散歩に行きましょうか」ではなくてまず、「お茶を飲みましょう」、そしてお茶を飲んだ後で「散歩に行きましょう」と、ひとつずつていねいに言いましょう。同時にご主人の反応を見てみましょう。表情、身ぶり、動作などを観察すると、快いのか不快なのかが分かると思います。不快そうであれば話の場面を変えて様子を観察して、楽しい時間になるように試みて下さい。

 このように配慮して会話をすることが大切です。が、同時に配慮する側の方が疲れてくると思いますので、どうか、ご自分の気分転換も考えて下さい。

 現在はサービスを利用していないようですが、痴呆があるからといってサービスが利用できないことはありません。介護保険は申請しないとサービスの利用はできません。痴呆があるからこそサービスが必要なのです。自分だけで抱えていると共倒れになってしまうことがあります。上手にサービスを利用することを勧めます。近くにある在宅介護支援センターか介護サービス支援事業所に連絡して、サービスの利用について説明を聞いて下さい。適切なサービスを利用することで介護負担が軽くなると思いますし、少しの時間でも介護から離れることで、気分転換が図れるのではないでしょうか。また、デイサービスなどを利用することで、他者とのかかわりもできてくると思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学