認知症110番

ホームヘルパー

 父85歳と母84歳は2人暮らし。母の入院で2人の生活が変わりました。退院を契機に在宅サービスを利用することにしました。今までも何度もサービスを利用することを勧めましたが、聞き入れてくれなかったので、娘としては、不安ではありますがほっとしました。  仕事を持っているのでなかなか訪問することができません。電車で約2時間かかるので、時間を見つけては行くようにしようと思っていた矢先、ケアマネジャーさんから電話があり「妄想があるようだ」と言われました。ヘルパーさんに「お金がなくなった」「物がなくなった」といったそうです。  母は軽度痴呆があり、父は年齢相応の物忘れがあります。これから次々にいろいろなことが起こるでしょうが、ホームヘルパーさんにはどこまでお願いできるのでしょうか。痴呆が進んだらどうなるか不安ですが、その前に、このまま2人の生活ができるのか不安がいっぱいです。=千葉県、女性、(58歳)

【回答】「他人の訪問」に戸惑い 見守って

「お金なくなった」 妄想的な言動が…

 今まで2人でのんびりと自分たちらしい生活を送っていたのに、急に思ってもない事態になってしまい戸惑っているのだと思います。他人を家に入れることは、かなりのストレスになります。

 妄想は現実と合わない不合理で誤った考えで、強く確信して訂正しないことをいいますが、刺激の少ない生活の中に、知らない人が契約しているとはいえ、自分の家の中に入ってきて、冷蔵庫を開けたり、掃除や洗濯で部屋や押入れやタンスを開けたりするのですから、生活のリズムが狂ってしまい、なんとなく落ちつかないのだと思います。お金の置き場所なども、自分で変えたのを思い出せないのではないでしょうか。長いこと2人だけの空気が、突然、変わるのですから今の生活に慣れるまでは緊張してチグハグな言動が見られることがあると思います。娘さんとしては心配でしょうが、間違っていてもしばらく見守っていてください。数カ月してからも続くようであれば再度考えましょう。

 傍からみると、サービスが入ることによって、不便な生活から解放されるのではないかと思うでしょうが、本人たちにとっては、生活環境は快適になるものの、精神的には複雑な気持ちなのだと思います。

 お母さんの方は痴呆があるということですから、環境の変化を適切に受け止めていないのかもしれませんね。自分のタンスや引き出し、冷蔵庫を開けるのを見て、どう思っているのでしょうか。ヘルパーさんが来ることに慣れれば解決すると思います。その間、不安でしょうが見守ってください。ヘルパーさんが援助したことや様子などをノートの書いていきますので、訪問したときには見てください。また、思ったことを書き入れて連携を取るのもよいと思います。お母さんだけでなく、お父さんも同じだと思います。2人の生活が今までのように継続していくためには、在宅サービスの利用は不可欠ですから、サービスを利用しながら、様子を見てケアマネジャーさんとの連携も密にして下さい。

 ホームヘルパーさんにどこまで頼めるかということですが、介護保険ではホームヘルプサービスのことを訪問介護といいます。利用者の自宅を訪問して、排泄介助、食事介助、入浴介助、移動介助、起床・就寝介助、自立支援のための見守り的援助などの身体介護と、掃除、ベッドメーク、衣類の整理、調理、買い物、薬の受け取りなど日常生活を支える家事援助があります。これらは利用者の自立支援を目標にサービスを提供します。

 仕事の範囲は決められていますので、生活に必要なこと全般かというとそうも思えますが、日常生活の支援ですから、地域の一員として役割や外部とのかかわりは家族の援助が必要となります。ペットの世話や草むしり、花木への水やり、植木のせんてい、大掃除、ガラス磨き、床のワックスがけ、来客への応対、利用者が使用する場所以外の掃除などはサービスとしてはできないことになっています。また、服薬、排痰ケア、外用薬の塗布、人工肛門の処置、摘便、血圧測定、酸素吸入、浣腸、爪きり、点眼、経管栄養、痰の吸引、膀胱洗浄、褥瘡の処置、導尿、点滴の抜針、インシュリンの投与などの医療行為はできません。

 初めて利用するので、どこからどこまでしてくれるのわからないで頼んでしまって、「できない」といわれると、混乱してしまうでしょうから、説明しておくとよいと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学