認知症110番

トイレ誘導

 要介護4、アルツハイマー型痴呆の中等度と診断された義父のことで困っています。義母が亡くなってから一人暮らしをしていましたが、2年前から物忘れがひどく火の始末もできなくなり、夫の定年を早め私も仕事を辞めて一緒に住みました。  しかし、トイレでのそそうが頻回になるなど、どんどんひどくなっていく様子を見ていて、いろいろ考えました。が、「やはり家でみよう」と、段差の多い和式の家を建て替えました。その間、老人保健施設を利用しました。  新居が完成し、何度も外泊を重ねて引き取りましたが、失禁がひどいので、おむつをしても外してしまいます。家の中は尿臭がひどく、ぶつぶつ言いながらうろうろしている姿を見ているとストレスでキレそうになります。バルーンカテーテル(注)などにはできないのでしょうか。=新潟県・長男の妻(60歳)

【回答】便意や尿意にうまく反応できない プライド尊重して

 義父のためによく頑張ってこられましたね。思っていてもなかなかできないことです。仕事を辞めて介護することのご苦労は並大抵ではなかったでしょうね。さまざまな戸惑いや予測できないことにかかわっていくことは、身体的にも精神的にもストレスになったことと思います。それを乗り越えて、生活をしやすくするためにと考えられて家の建て替えとなったのですね。これまでの努力に頭が下がります。

 しかし、どうでしょうか、建て替えた家で生活を始めたらさまざまな問題が起こってきました。よかれと頑張ってもそれだけでは解決できないこともたくさんあります。それは、痴呆により起きる行動が進行してくるからなのです。痴呆は病気だからです。

 現在、困っていることのひとつが失禁のようですね。家を建て替えたためトイレの場所がわからなくなってしまったと思われますがいかがでしょうか。以前と同じ場所であっても家の雰囲気そのものが変わったので、場所の見当識障害により、トイレの場所が確認できないために、どうしてよいかわからない状態なのだと思います。場所がわかるように表示するのも効果的だと思います。トイレにたどりつけるような工夫をして下さい。

 おむつを外すようですが、歩いてトイレに行こうという行動がみられるのですから、時間を決めてトイレに誘導するか、もじもじしたりしてトイレに行きたいサインを見逃さないようにして誘導する方がよいと思います。おむつをしている意味が理解できなく、おむつをつけている違和感がおむつを外す行為になるのではないでしょうか。

 バルーンカテーテルですが、気持ちはわかりますが、トイレに行こうとしているのですから、尿意や便意はあると思いますので、介護者が失禁で困っているという理由でバルーンカテーテルにしてしまうことは、本来の姿ではないと思います。やむを得ない場合に限ってする処置だと思います。日に何度も失禁で汚されて大変であることは、よくわかるのですが、尿路感染症を起こしたり、バルーンカテーテルを引っ張ってしまったりして、更に介護が大変な状態にならないとも限りません。やはり大変でも、義父のプライドを傷つけないようにすることが最優先です。痴呆の進行状態によってはおむつやバルーンカテーテルになることも避けられませんが、現状ではトイレ誘導を工夫してみましょう。尿臭も気になりますね、一般的ですが濡れたらすぐ拭き取る、汚れた下着などはふたつきのバケツなどに入れる、空気の入れ替えをこまめにする、消臭剤などを活用するなどしてみてください。

 これまでの介護でも経験されておられると思いますが、本人を受け入れて笑顔で接することが原則です。もう一度失禁について振り返ってみますが、膀胱に尿が溜まったという情報が脳に伝わりますが、脳がその情報を正しく判断できないのです。そのため、指示命令がスムーズに動かないので、普通であれば、トイレに行くのですが、トイレの場所や尿が溜まった意味がわからず行動がチグハグになってしまうのです。行動は的確ではありませんが感情は豊かなのです。

※バルーンカテーテル=排泄に支障がある人に、管を尿道から膀胱内に挿入し管の先の蓄尿袋に排尿させる。管が2本あり、1本が先端の風船状の袋に通じている。膀胱内に挿入後、空気等で風船を膨らませ脱落を防止し、もう1本の管で尿を排出させる。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学