認知症110番

同居を拒む父

 86歳で軽度痴呆の母と87歳の歩行が少し困難な父は2人暮らしです。子供は1人で、車で2時間の所に住んでいます。日常生活は訪問介護を利用、私としては機会があれば自宅に連れて来ようと思っていても、父が嫌がり先送りにしていました。最近、その父も物忘れが目立ってきたのと、絶えずお菓子を食べ食事のバランスが崩れてきました。しっかりしている時もありますが、気持ちよく了解の上で来てもらいたいので、なかなか思うようにいきません。

 呼び寄せて在宅サービスを利用しながら看たいと考えていますが、環境の変化で2人ともぼけがひどくなるのではという心配もあります。仕事の関係で私が実家で看るわけにはいきません。近所に私の子供家族がいるので協力してもらおうと思うのですが、両親にどのように話せばわかってもらえるでしょうか。(埼玉県・娘・57歳)

【回答】短期間の宿泊 数回試して観察

 娘としては気がかりでしょうね。本人たちは、日々の暮らしができているので、それほど深刻に考えてはいないと思います。その日その日が成り立っていれば、他者が考えるほどではないのでしょうが、子供の立場から考えれば、日々老化していく親を何とかしなければと思うのでしょう。両親の年齢から見て、今まで2人で生活ができてきたことは、何よりも幸せなことですがそれが続くとは限らないのが現実です。加齢とともに身体の低下が見られます。2人ともに軽度の痴呆があるようですから、そろそろ2人だけで暮らすことの限界がきていると判断し、引き取ろうと考えておられるのだと思います。

 環境が変わることでぼけを助長してしまうのではないかとの心配ですが、これまで娘さんのお宅への往来はどうだったのでしょうか。初めてであれば、短期間の宿泊を数回試してはどうですか。一緒に生活すると今まで見えなかったことが見えて、注意や指示をしてしまいがちですが、あくまでも快い体験ができることを心がけて、どのような動きをするのかを観察してください。娘さんと一緒に過ごすことで安心感や快適さを実感してくだされば、思っているより容易に了解すると思います。

 おっしゃるように環境は変えないほうがよいと思いますが、1人になってからよりは、2人が一緒にいる環境を変えないようにすることのほうが大切だと思います。2人が一緒にいることは安心の基本で、なんとか2人で話をしたり、共に暮らせるような環境であれば、それほど問題にはならないでしょう。2人が元気なうちに早めに連れてくる方がよいと思います。

 しかし、その了解は簡単ではないと思います。サービスを利用していても、何とか生活ができているし、実家は2人で築き上げてきた家ですから、家に対しての執着はかなり強いと思います。その家を引き払って、「住まいを変える」というのではなく、非効率的だとは思いますが、しばらくの間、「娘の家に泊まる」という形にして様子を見ていきましょう。徐々に2人だけでは生活ができないことを感じてもらえるとよいのですが、時折、思い出したように「家に帰らなければ」との言葉も聞かれると思います。時間を作るのは大変でしょうが、定期的に1日でもよいから実家に連れていくようにしてはいかがでしょうか。

 娘さんの家にきても、在宅サービスは利用できますので、現在かかわっているケアマネジャーか近くの居宅介護支援事業所に相談してください。一緒に住むだけでも、かなりの精神的な負担になると思いますので、在宅サービスを速やかに利用できるように、近所にあるサービスなどの見学や情報を収集しておかれるとよいと思います。

 自分だけで抱え込まないで、自分は自分らしい生活ができるようにしましょう。ぼけは進行する病気で、介護の手がかかるようになります。決して、自分だけが我慢すればという気持ちは持たないでください。ゆとりを持っていないとストレスで気がめいってしまいます。介護はいつまで続くか分かりませんから、気分転換をする時間をとり、他者に任せられることは任せて、親子という良い関係が続けられるようにしましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学