認知症110番

軽度の痴呆

  夫の父(84歳)と同居しています。端からみるとまったく普通の高齢者としか見えないのですが、一緒に生活していると軽度の痴呆だと分かります。ですが、夫や妹たちは年齢のせいだと言うばかりか、嫁の私のかかわり方が悪いからぼけてしまうと言うのです。  一緒にいる時間が短ければ分かりませんが、例えば、お菓子ばかり食べていて、食事は少しの量しか摂りません。食べたこともすぐ忘れてしまい、「りんごをむいて」とか、みかんを、あるいはバナナを「くれ」と言いながら、お菓子を食べ続けるのです。むしゃむしゃというのではなく、少しずつ、ちびちび食べるのです。お風呂に入ってもどこも洗わずに、ただ入っているだけです。薬もめちゃくちゃです。一緒にいてその都度声をかけているので、なんとかなっているのに分かってくれません。イライラの連続です。=神奈川県・長男の妻(55歳)

【回答】デイサービスなど利用し気分転換を

 少しの時間だけでは状況は分からないのが軽度の痴呆の特徴です。でも一緒に生活をしていると気になりますよね。夫や妹さんたちは、少しくらいのことで何を言うのか、それよりも高齢なのだからやさしくかかわってくれればいいのに、と思う気持ちがあるのも親族の気持ちとしては自然かもしれません。だれが見ても変だなと感じる行動や明らかに周囲が困る問題などが起こってくると、痴呆を認めざるを得ませんが、軽度で一見生活ができているように見えると理解できないものです。

 しかし、いくら軽度であっても、毎日生活を共にしていると見過ごすことはできませんね。たかだかお菓子や果物を食べるくらいいいではないかと思うのでしょうが、バランスや栄養を考えて作った食事を残して、体によいとは思えないお菓子などを食べ続けている姿をそばで見ているだけでたまりませんよね。その気持ちよく分かります。やさしく説明しても返事だけで、一向に止まらない状態をなんとかしようと工夫を重ねても変わらない。夫や妹たちは理解しようとしない。そればかりか、なんでもない日常生活も配慮しないと続けられない状況は精神的にもかなりのストレスになると思います。

 理解してもらいたい気持ちは大切なことですが時間がかかります。それよりもストレスで介護がいやにならないように、気分転換が必要です。自分の今の気持ちを分かってもらうようにしてはいかがでしょうか。地域の講演会や学習会、電話相談なども身近にありますので活用してみましょう。活用することでいろいろなヒントが得られるし、違う発想でかかわることができるかもしれません。家の中で向き合っていると気持ちも落ち着かなくなってしまいます。なによりも、一緒にいる介護者が明るい気持ちでかかわれる状態でいることが大切です。介護者の気持ちがお父様の気持ちに反映しますので、介護者が穏やかに過ごすことができるような環境つくりが重要です。意識して気分転換するようにしましょう。

 お父様は何もすることがないから、ついつい食べることにだけ気持ちが傾いてしまうのかもしれません。小さなことでもよいので、家の中での役割つくりはできませんか。例えば仏壇の妻にお茶やお花の水の取り替えなどはいかがでしょうか。服薬も任せておくだけでなく、一緒に分かるように小分けして、服用したらチェックすることでもよいと思います。毎日決まってすることがあるような工夫を考えてください。最初は手を貸したりして面倒でしょうが、生活のリズムになってくると思います。あるいはデイサービスなどの利用はどうですか、他者との交流はよい刺激になると思います。知らない人の中には行きたくないというかもしれませんが、是非見学をしてみてください。

 今の状態を少し変えてみると、周りも自然に変わってきます。それを機会に夫や妹さんたちも見方も変わると思いますし協力的になると思います。理解されないまま介護を続けることはストレスになるばかりかやりきれなくなって倒れてしまいます。誰かが犠牲になる生活は長続きしません。痴呆を理解して、それぞれの負担が少なくなるように、サービスを利用したり、気分転換が図れるように意識してしましょう。それでもストレスはなくならないと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学