認知症110番

娘と嫁の関係

 兄家族と同居の84歳の母は、年齢相応の物忘れはあるが生活には支障がないように思います。世話は、義姉がしていますが娘の私から見ると、もっと優しく接すれば母も穏やかなのにと思うのです。母は昔から優しく、怒った姿を見たことがなかったのに最近はブツブツ言ったり、落ち着きがありません。私は週5日働いていますが車で30分のところに住んでいるので、心配で隔週ごとに顔を出します。母の好きなお菓子を持参、一緒に話をしながら食べます。そのときの母の顔は穏やかです。声をかければ失禁せずにきるので、義姉には声かけをして欲しいのです。ちぐはぐな服装も準備しておいてあげれば、おかしな着方にはならないと思います。気を使って欲しいのです。義姉は外で仕事しているわけではなく時間はあるのです。ですから、義姉が母に優しく接すれば容態も良くなると考えるのですが。(埼玉県、娘、55歳)

【回答】生活全体を見ていく気持ちが必要

 娘さんの気持ちはよくわかります。離れているとなお心配になるのだと思いますし、働いていて時間のない中、時間を作り訪問をしているのですからその思いはさらに強くなるのではないないでしょうか。イライラした気持ちをお嫁さんには話すわけにはいかないが、言いたいことは山ほどあるのでしょうね。子どもとして母を思う気持ちは心情として痛いほど伝わってきます。

 しかし、毎日接しているお嫁さんの気持ちはどうでしょうか。娘さんからみると、失禁があり洋服がチグハグ、こまめに声をかけたり準備しておけばいいのにと思うでしょうが、お母さんは、それでできる状態なのでしょうか。できる状態であっても、毎日、声をかけ続けるお嫁さんも、そのことでストレスになっているように思うのですが。働きには出ていないものの諸々の家事があり、時間はあるようでないと思います。

 お嫁さんは、お母さんに対して毎日同じことを何回も言わなければならないし、失禁の世話などがあり、一緒にいるだけでも疲れることを分かっていただけないでしょうか。また、時々会う人に対しては、しゃっきっとするが、いつもそばにいる人に対しては痴呆症状がでるのも痴呆の特徴です。

 娘さんとお菓子を一緒に食べることは、お母さんにとっては楽しみであることは確かでしょうし、そのときは穏やかな笑顔で会話も弾むのでしょうから、このひとときはこれからも持続できるといいですね。穏やかな時間を過ごすことはとても大切なことでもあります。娘さんと過ごしているとき、お嫁さんはどうしているのでしょうか。家事をしているのでしょうか、それとも娘さんと一緒に3人でお茶をしているのでしょうか。一緒でないとするとお嫁さんの気持ちはどうでしょうか。

 これは言い過ぎかもしれませんが、お菓子を食べれば、当然の結果として排泄があります。その排泄の世話は誰がするのでしょうか。排泄の世話をしてほしいというのではなく、生活していくにはいろいろあり、お菓子を持参し楽しみを提供してくれる人がいれば、その裏を支える人もいる。表面だけの世話を見るのではなく、生活全体を見ていく気持ちが必要だと思います。どうしても目に見えることに気持ちがいってしまいますが、日々の生活を支える裏側の大変さを理解しましょう。見えない部分に配慮しながら支えてこそ、穏やかな生活ができ、そのことが痴呆性高齢者のプライドを傷つけないことに繋がるのだと思います。説教じみてしまいましたが、お母さんを取り巻く人たちは、それぞれが良かれと思ってかかわっているのでしょうね。自分の考えで行動しているのでしょうが、お互いの気持ちを話し合ったことはありますか。たまに話し合う機会をもつと、それぞれの気持ちを理解できますので、気軽に話し合ってお互いを理解し、ストレスをなくし風通しを良くすることも大切なことです。

 毎日世話をしている人は、何よりもねぎらいの言葉が、次の頑張りになっていることが多いようです。娘さんとしては、訪問したとき、少しだけお嫁さんにねぎらいの言葉をかけてはどうでしょうか。そのことがどんな大変な世話をしていても、心にゆとりを持ち、お母さんに優しく接する原動力になれるのではないかと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学