認知症110番

帰宅願望

 働きながら実母の介護を3年、最後は病院でしたが介護をした充実感がありました。姑は82歳でぼけの症状が見られます。長男と暮していましたがその妻が入院、次男の夫が引き取ることになりました。私も仕事を持っており、日中が心配なので、ケアマネジャーに相談しデイサービスを利用することにしました。初めは静かにしていたのですが、1カ月を過ぎたころから「家に帰る」と言うことが増え出て行く行動も頻繁になり、デイサービスの利用は難しくなりました。そこでショートスティを利用しましたが、ここでも「家に帰る」と絶えず出て行く行動があり、夜間は安心して介護できないと言われてしまいました。現在、長年の勤めを辞めて介護していますが、よくならないばかりかマイナス面が多くなるように感じられます。私も疲れが出てしまい、いつまで続くかと思うと気が滅入ります。(静岡県、嫁、53歳)

【回答】外部サービスなど利用し、プラス思考で

 仕事を辞めてお姑さんの介護をされているということですが、帰宅願望が強くなかなか在宅サービスを利用できないのはかなり介護負担になりますね。

 帰宅願望はこの病気の症状によく見られる行動です。サービスを提供しているところでは対応に工夫するようになってきたようですが、現実にはまだまだなのですね。最近は認知症高齢者の増加に伴い研修で理解を深め適切な介護ができるようなシステムができつつあります。利用したサービス事業所では、適切な介護が提供されなかったように思います。どのサービスも同様ではありませんので、再度ケアマネジャーに認知症の特徴を理解してもらい、お姑さんが安心できる事業所を一緒に探すことも一つの方法だと思います。

 一人だけで在宅の高齢者を抱えることは、介護者が倒れてしまいます。仕事を辞めて介護することは、従来の生活を変えていくことですから、それだけでもストレスの多いものだと思います。その上に危険がないように見守りながら介護するのですから、介護者の負担は予想をはるかに超えるものがあるでしょう。精神的な負担は周囲には見えません。自分から大変さを声に出して、お姑さんが外部のサービスを利用できるように協力を求めましょう。

 お母様のときは介護に充実感が持てたようですが、今はお母様の介護以上に気を使っているのではないでしょうか。よくならないと感じておられるようですが、お姑さんは現状認識ができない状態です。その上生活の場が変わったのですから、当然不安感もあり、それを上手に表現できないと思われます。不安な気持ちを「家に帰る」という表現で、心の中にある家、かつて安住感のあった家を探しているのです。「家に帰る」と言う時の状況はどんな時でしょうか、それらを観察すると、落ち着かない理由が分かるのではないでしょうか。

 「家に帰る」と言ったときには、さりげなく「そうですか、気をつけてお帰り下さいね、ちょっと心配なのでそこまで送りますね。その前に、お菓子でも食べましょうよ」などと言い、様子を見ましょう。「そうね」と言ってくれればいいのですが、そうはいかない時もあります。そんな時は、何とか引き留めるための手立てを考え、お姑さんの興味を引くことを話題にしたり、子供や親の名前を使って「○○さんが、迎えに来るから待っていてと言われた」「遅くなったので、今日はここに泊まって明日帰りましょう」と言ってみましょう。それでも出て行く気配のある時は、「送っていきましょう」と一緒に外に出て、話をしながら巧みに家に戻るように誘導しますが、うまくいかないこともあります。

 こうしたことが何回も続くと、介護者は憂鬱になってしまいますね。しかし、話に耳を傾けると、昔のことや子育てのころの話をしていることが多く、昔の生活や夫の兄のことを知る機会にもなると思います。また、認知症高齢者がどのような行動をとるのかも、知らず知らずに理解できるのではないでしょうか。

 同時にお姑さんの表情も見てください、穏やかな笑顔が見える時がありませんか。小さな変化を見つけて、介護の効果だと考えましょう。マイナス面を見るのではなく、プラス思考でかかわると気分が少し楽になると思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学