認知症110番

入浴拒否

 1人で暮らしていた母親にぼけ症状が出てきたので、1年前から同居しています。夫と子ども1人がおりますが、主介護者は娘の私です。初めは気を使いながら介護していたのですが、最近はデイサービスを利用しての介護ですが、お風呂に入るのを嫌うのでとても困っています。デイサービスは週2回利用していますが、やはり入浴を嫌がり、入らないことが多いのです。無理強いしては更に嫌がると思い、ついつい先送りをしてしまうのですが、だんだん入る回数が少なくなり髪などもにおうので、家族も「なんかくさくないか」と言うようになりました。なんとかして入浴をと思うのですが、いろいろ理屈を言うので入らないまま過ぎていきます。それなのに、たまに風呂に入ると「いい気持ち」と機嫌がよいのです。「また入りましょうね」というと、そのときは「そうね」といいながら入ることを嫌がります。(東京、58歳、娘)

【回答】人の手が心の負担に?まず理由を探ることから

 洋服を着替え、顔や歯を磨いていれば清潔は保たれるし、嫌な風呂を無理強いするのはよくないから機会があれば、と思っているうちに延び延びになってしまうのですよね。いろいろ工夫してやっとお風呂に入ると、「いい気持ち」とこともなげにいうその落差に介護者は力が抜けてしまいますよね。入りたくない、と嫌がった理由は何なのかと疑問を感じるでしょうが、入ると「いい気持ち」と言うのですから、入ることを拒否しているのではないと思います。

 入りたくない理由はどこにあるのでしょうか。入ることそのものではないようですので、家かデイサービスの場所が嫌なのか。家でもデイサービスでも同様に拒否するのですから、家だから、あるいはデイサービスだから嫌だというのではないようです。入浴の場面にかかわるところから探っていくのがよいのではないでしょうか。

 まず、「お風呂に入りましょう」と声をかける場面ではどうでしょうか。ここで嫌だ、と拒否するのであれば、お母様は風呂に入るために人に介助してもらわなければならず、そのことが気がかりになっているのではないでしょうか。今までであれば自分でさりげなく入っていたのに、人の手を煩わすことが、心の負担になっているのではないでしょうか。

 介護している側は当たり前と思っていても、お母様は、自分が風呂に入るそのことで、手を借りることになんとなく心が重くなることも考えられます。そのような場合は、「汗をかいたわね、さっと風呂にでも入りましょうか、背中の流しっこでもしようよ」「たまには昔のように一緒に入りたいな」などというのも一つの方法で、母親としての感情が湧いてくることもあるでしょう。

 さらに服を脱ぐことに抵抗を感じている場合もあります。どんなにぼけ症状があっても、人に服を脱がされるのは「恥ずかしい」という気持ちがあるのは当然です。デイサービスでは、介助する職員たちは洋服を着ているのに自分だけ脱いで裸になることに違和感があるのかもしれません。風呂に入るということが一連の流れで理解されていなければ、違和感から不安になるのも当然と思われます。家であれば一緒に入ることも可能ですが、デイサービスではなかなかそこまでは無理でしょうから、入浴の誘いをした職員が、服を脱ぐところから服を着るまでのプロセスにずっとかかわることで安心につながることもあります。また、本人の好きな音楽などをかけて気分が楽になるような工夫もよいと思います。

 風呂に入ることを勧めても嫌がるので、黙って風呂場に連れて行きたくなりますが、これは一番いけないことです。なにが起こるか分からないまま行動を起こされると不安になり、おどおどしてしまいます。理解できないように思えても、正確な情報を伝え、表情などを観察し、それでも分からないようであれば時間をかけて様子を見てから行動に移しましょう。

 生活をしていくにはいろいろな介護が必要ですし、介護者は良かれと思って行っていても、嫌だと拒否するには何らかの理由があります。ぼけているから嫌だといっているのではありません。なぜ嫌なのか理由を探りましょう。簡単には分からないでしょうが、なぜかを模索し、理由を考えてさまざまな対応を重ねていきましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学