認知症110番

父と電話

 78歳の父のことで相談します。現在、父は母を3年前に亡くし、一人暮らしをしています。日常生活は月〜金まで訪問介護で調理、掃除、洗濯のサービスを利用しています。娘の私は、49歳で勤めを持ち、近所に住んでいるので勤め帰りに寄って様子を見ています。土・日は世話をしています。まじめな父で少し心配性な面があります。2年前くらいから、「通帳がなくなった」「書類が見つからない」と職場に何度も電話をかけてくるので、携帯電話を持たせましたところ、頻繁に電話をかけてくるので留守電にしておきますが、鳴っているのがわかります。ときどき緊急かなと思い出ると、「○○がなくなった」といつも同じです。最近では「またか」と思いながらも、ストーカーのように付きまとう電話にうんざりしています。携帯電話を取り上げてしまおうかと思いますが、そうすると職場に直接かけてくることになると思うと、そうもいかないので悩んでいます。(東京都、49歳、娘)

【回答】「次は何時ごろかける」との約束も一手

 いろいろ考えて今のような状況になったのでしょうが、鳴り続ける携帯を横目で感じていることは、かなりのストレスになっていることと思います。携帯を持たせない、という考え方もあるでしょうが、おっしゃるとおり電話に変わるだけだと思いますし、不安が増すだけではないでしょうか。携帯を持っていることは、直接、娘さんとつながっている安心のもとになっていると思われます。受けるほうとしては、頻繁にかかってきて迷惑なことでしょうが、上手に活用することで現状の生活の安定を継続しましょう

 仕事中は電話に出られないことは当然ですから朝、出かける前、職場に着いたとき、昼休みや仕事が終わった時間に定期的に娘さんの方からかけるのはいかがでしょうか。携帯を受けるだけではなく、決まった時間にかけることで、娘さんから連絡があることがわかると安心につながる場合もあると思います。携帯をかけるときは、明るい声で話しかけ、仕事中なので次は何時ごろかけるからと約束することも方法としてはよいと思います。

 避けようと思うと追いかけられる感じになってしまいますので、娘さんの方からお父様に近づいていくと、距離感が薄れてくるのではないでしょうか。そうはいっても、毎日訪問し、お世話をしているのですから、その負担感は言葉では表せないくらい大変なことと思います。携帯を使いこなすことができるのですから、一人暮らしはまだまだ継続できる状態だと思いますし、今後忘れることも多くなるとその度に携帯が鳴り響くことも多くなるかもしれません。ストレスで負担感が増すように思われますが、これまで頑張ってこられてきた自分をほめながら、これから先のことを考えていきましょう。

 現状は訪問介護サービスを利用して一人暮らしができていますが、この状態を保つために、他者との交流を図り精神的な活性化を目的にデイサービスを利用したり、ショートスティなどのサービスを上手に活用して、お父様のお世話から少し離れて自分の時間をつくり休養することも大切です。まだまだお父様のお世話は続くと思われますので、これから先の長い時間をどのように過ごしていくかを考えられているかもしれませんが、一人で抱え込まないで、自分にゆとりを持ちながらお世話をしていけるようにしていくことをお勧めします。お世話をする人が元気で気持ちにゆとりがないと、良いお世話はできません。

 認知症に関する情報もたくさんあり、ホームページなどもいろいろあります。お世話している人たちの苦労や工夫が書かれていて、かかわるヒントが得られますので活用してみてはいかがでしょうか。情報を得ることで、今後の対応への予測がつくと少しは気持ちにゆとりができます。お父様とのよい関係を保つことが双方にとって安心できることですが、お父様の状態が今よりも手がかかるようになることも予測しておいて、どのように対応していけばよいのかを予め想定しておくと気持ちが楽になります。社会資源はたくさんありますので、常に情報をキャッチして上手に活用するようにしましょう。ストレスを軽減するために気分転換を図ることも忘れないで下さい。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学