認知症110番

介護と仕事

 80歳の母と2人暮らしです。父は5年前に亡くなり、母はそのころより物忘れが目立ってきました。現在は週3回のデイサービスと週2回の訪問介護、土・日は娘の私がみています。私は仕事をもっており、週2回は母に昼のお弁当を作って仕事に行きます。いつも出かけようと玄関に行くと、すぐに母はお弁当を食べ始めますが、おやつもあるのでそのままにしています。先日テーブルの上のヒヤシンスの水栽培の球根や台所の生のジャガイモに歯形がついているのを見つけました。食べる物の見分けがつかないようで、いよいよ仕事を辞めなくてはと思うのですが……(東京都、娘、53歳)

【回答】抱え込まず、自分の行き方を

 球根や生のジャガイモに歯形がついているのをみて、びっくりすると同時に不安を感じられたことでしょう。想定外の行動に走ることを理解していても、その現実にぶつかると、ふだん支えている自分の気持ちが大きく揺れて、足元が崩れそうになりますよね。そうなる前に、なぜ気づかなかったのだろうか、仕事が忙しくて、もしかしたら他にも気づかずにいる部分があるのではないだろうか……などと次々に不安と自分の至らなさが押し寄せてくるでしょう。

 でも、球根や生のジャガイモは食べなかったのですから、食べられないものであることは分かっていたのでしょうね。しかし、現実を見渡すと、食べられないものを食べようとした形跡ははっきりしていますから、認知度が進んでいることを認めつつ、安全に生活ができることを考えましょう。安全を守るために、まずはお母様がいつもいる場所に座って、お母さまの目線で見える範囲を確認し、危険なものはないか、さらに行動についても、同様にしてみましょう。見えるものは触ったり、口に入れると考えて、台所の洗剤や消毒剤など危険なものを不便であっても、お母さまの手の届かない上の棚に置いたり、鍵をつけて開けられないようにしましょう。何も置かないと逆にいろいろな場所を開けたりしてしまいますので、見える場所には食べてもよいもの置いて、食べたい時に食べられるようにしておくのも一つの方法です。 

 仕事を辞めて、お母さまの介護に専念したいと思う気持ちはわかりますが、現在は仕事があるから、お母さまと少し距離感があって保たれているように思います。24時間ぴったりついて見ていても、今回のようなことは起こると思います。お母さまは娘が仕事を辞めて、介護されることを喜ぶでしょうか。自分は自分の生き方をしていくのがよいように思うのですが。犠牲の上に成り立つ生活は双方にとって、時間がたつとともに心地よいものではないように思えます。多様な社会資源がありますので、お二人の生活に合うような在宅サービスの情報を収集して、シミュレーションしてみてはいかがですか。一人で抱え込まないようにしましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学