認知症110番

通帳がない、と訴える姑

 76歳の姑(しゅうとめ)と暮らしています。姑には子どもが3人(女・男2人)で一緒に暮らしているのは二男夫婦です。二男は仕事で出かけ、日中は姑と二男の妻の私の2人です。2年前位から物忘れが目立ってきて、通帳がなくなった、衣類がなくなった、ご飯を食べさせてくれない、小言をいうなどと長男や長女に訴えます。長男や長女は電話で話すだけで、自宅へ来ることは年に数回、お中元やお歳暮、母の日などに贈り物があり、姑はそのことを喜んでおります。姉や兄は電話での話を信じ、二男に「親切にしないから、ぼけてしまうのだ。妻に言え」と何度も言ってきます。(岡山県、嫁、51歳)

【回答】安心感から感情抑えられず

 いつも一緒にいる人が一番かかわりをもち状況を見ながら対応しているのに、そのことが分かってもらえなくて、気持ちが沈んでしまいますよね。認知症のはじめは、特に他者にはわかってもらえないことが多くあります。

 たまにしか会わない人や電話などで目の前に人がいない場合は、緊張するのでしょう。緊張するから、今までの経験から自分の気持ちは出さず、常識的な受け答えをします。第三者からみると、何も問題はなく違和感がありません。しかし、いつもそばにいる人には安心して、自分の気持ちを出してしまいます。ものを忘れるという見当識機能が低下しているのですから、自分では大切なものだから忘れないようにとしまったのに、そのしまったことを忘れて、目の前にないことがクローズアップされて、おかしいなあ、だれかがとったのに違いない、周りにいるのは嫁なので嫁がとったと思ってしまうのです。ご飯も同様です。食べたことを忘れてしまうのですから、何かの拍子に食べてないと感じ、そのことから食べさせてくれない、身近にいる嫁が食べている姿は記憶のどこかにあるのでしょう。その嫁が食べさせてくれないとつながってしまい、たまたま電話をかけてきた子どもとの会話の中で訴えると、子どもは母の現状を知らないから、母が言っていることを信じてしまうのでしょう。そしてその時の母親の言葉は表情が見えないだけに、子どもとしては感情移入して聞いてしまい、子どもは自分が日常見ていないことが気になりながらも、このような状態にいる母親をなんとか助けてあげることが子どもとしても務めだろうと思い、母親が困っていることを弟に話しておくことで解決すると思い電話をしてくるのだと思います。

 緊張を伴う相手には、認知症状は出にくいが、身近な人には認知症状は強く出る傾向があるのです。逆を言うと、いつも一緒にいるあなたには安心して自分の感情を出しているということです。離れている義姉や義兄は緊張を伴う人なのでしょう。しかし、姑の症状も進む可能性がありますので、電話よりも直接姑の生活そのものを見てもらえるように、訪問回数を増やしてもらうこと、日記等に暮らしぶりを記録しておく、在宅サービスなどを利用してその状況を見てもらうなどしてはいかがでしょうか。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学