認知症110番

妻と思い込み、嫁の手を握る義父

 81歳の義父と長男夫婦(52歳・51歳)の3人暮らしです。義父は義母が5年前に亡くなってから物忘れが始まり、最近は嫁の私を義母と間違うことが多くなり、「おーい、おーい」と呼んだり、食事の時も隣にぴったり座ったり、手を握ったりしてきます。義父はもともとプライドが高く口数も少なく、外に出ることも少ないので、家の中でテレビを見て過ごしています。ときどき、ジーと私を見ている義父に何とも言えない嫌な気持ちになってしまい、夫に相談しても笑うばかりです。このような状態は続くのでしょうか。(東京、長男の妻、51歳)

【回答】毅然とした態度で「NOと」

 お困りの気持ちよくわかります。ご主人は、物忘れが目立ってきた義父に対して、いくら物忘れがひどくなっても、人生を共にした義母を忘れるほどひどいとは思ってもいないし、また30歳も違う嫁をまさか間違うことがあるとは思ってもいないのでしょうね。さらに、プライドの高い義父がそんなことありえないと思っているのでしょうね。ですから、いくらあなたが事実を訴えても、理解できないし、一緒に生活をしていても感じられないのでしょうね。

 認知機能が衰えてきたという事実を考えてみましょう。お義父さまは男性です、高齢になってもそのことは変わりありません。一般的には社会的な倫理を持って日々生きているので、性に関しては外に露わに出さないことが社会通念になっています。しかし、認知機能が衰えることで、その枠がゆるくなっていると考えてみましょう。毎日の生活は、嫁のあなたが声をかけ、滞りなく過ぎていきますが、実際はその意味がわからないまま、不安のまま過ごしているように思います。かつては義母が生活全般を支えていて、その延長に現在の生活がありますが、認知機能の低下から、見当識障害により、義母と嫁の区別がつかなくなっていると思われます。

 そうはいっても、それでよいというわけにはいきません。お義父さまに生活のなかで定期的に体を動かし、快い疲れがでる工夫はいかがでしょうか。軽い体操や草花の水やり、玄関やベランダ、庭の掃除、ペットの世話、散歩、買い物、趣味活動など、なにか興味を持っていただけるものを探してみましょう。うまくできなくても、行えるようであれば、認めて心が充足できるように心掛けてみましょう。できない場合は、近所のデイサービス等の利用を考えてはいかがでしょうか。はじめは嫌がることもあるでしょうが、楽しめるように工夫して下さると思います。

 手を握ったり、いやだと思う行為がある場合は、きっぱりと嫌だ、いけないことであることをわかるように伝えましょう。プライドを傷つけてしまうなどとあいまいな態度をとらないで、毅然とした態度でNOであることを示しましょう。年を重ねても男性は男性、女性は女性であることを理解しながら、日々の生活でほんの些細なことでもよいですが心が満たされることを積極的に探しましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大学教授=介護福祉学