認知症110番

長男家族と同居し夫を介護

 夫(80歳)は、13年前に脳梗塞、5年前に糖尿病で左足膝下腿を切断し、認知症も徐々に進行。現在、食事は一部介助、その他は全介助です。妻の私(76歳)が介助していました。3カ月前に長男の家族(妻、孫6歳・3歳)と同居しました。リビングにベッドを置き、家族の動きが見えるようにしました。おむつ交換もするので、孫は「くさい」と言うが避けることはしません、疲れていやいや介助していると、じっと見ているのでハッとすることがあります。(岩手県、女性、76歳)

【回答】無理せず心の財産相続を

 同居されるまでは一人で介護されておられたのですね。在宅サービスを利用していても介護疲れは並大抵のことではなかったと思います。同居され少しほっとされたことでしょう。しかし、一緒にいる人が増えたことでの喜びもありますが、孫があなたの行動を見てどう感じ取るのか、祖父に対するあなたの態度を目の当たりに見て、まだまだ理屈では考えることが難しいお孫さんたちは、感情であなたの行動を見ていると思うと、祖母としては複雑な気持ちになられると思います。認知症でうまく会話ができないため、お孫さんたちはなぜなのか、周りの大人と比べたりして疑問を感じることもあるでしょう。そのような場面に何度も遭遇すると同居したことが良かったのか考え込んでしまうこともあると思います。

 人間ですからいつでも聖人君子とはいかないのが当然です。でも、お孫さんたちは教科書では学ぶことができないことを学ぶ大切な機会になっていると思います。人が生きていくことを日々の生活の中で体験できることは何より重要です。良いことばかりではないと思いますが、どのような状況であってもそれぞれがそれぞれの存在と役割を担い認め合いながら協力し合う姿が後々まで残るでしょう。そのことは言葉では伝えきれないもので感覚や感情的な部分であり、人としてのこころを培っていくものだと思います。お手本になるようにとか、教育のためにと思わずにあまり無理をせずに自然体でいく方がよいと思います。

 折角、同居したのですから、柔軟な気持ちで、何でもありで家族全員が自分らしく過ごしていくことがよいと思います。家族が集まる場所にベッドを置いていることがとても温かく、家族全員の気持ちを表していると思います。ご主人は理解が衰えても言葉が出なくても雰囲気や気持ちを感じ取ることはできますので、お孫さんたちの動きや家族の動きが直接見えることで良い刺激となっていると思います。ただ、笑顔で介護できないのは疲れているサインですから、休憩できるような手段を考えて実行しましょう。良かれと頑張らずに、自分には自分の人生があることを忘れずに、肩の力を抜いて家族全員が笑顔でいられるようにしていくことが、お孫さんに素晴らしい心の財産を相続することになると思います。どうぞ、今の生活に自信をもってお過ごしください。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学