認知症110番

娘の料理を食べない母

 80歳の母と2人暮らしです。母は物忘れがかなり進行して、生活全般に声かけや援助が必要です。月〜金はデイ・サービスを利用、土・日は次女が世話しています。食事を出してもジーとみているだけでなかなか食べません。声をかけて食べるように促しますが進みません。デイ・サービスでは食べているのになぜ家では食べないのか。仕事をしているので、洗濯や家事、買い物は土・日に集中。やることはたくさんあっても、なるべく母の好きなものを作るようにしているのに気になります。(長野県、51歳、娘)

【回答】家事をやめて向き合って

 次女のあなたが仕事をしながら、お母様のお世話を気を配りながらしているのが目に見えるようです。休みの日に買い物や家事をされ、お母様の好きな献立で美味しく食べてもらおうとしているのに、一向に箸もつけない姿が気がかりなのですね。

 食事をする環境ですが、あなたは家事が忙しくあれこれ動き回っておられるのでしょうね。お母様に食事を温かいうちにおいしくたべてもらいたいという気持ちから、お母様の分だけよそって食べられるようにしているのでしょうが、お母様にからすると、ひとり分だけの食事を出されてもどのようにしたらよいのかわからずに座っているのだと思います。目の前にある食事を自分が食べるという意味がわからずにいるのではないでしょうか。あなたから見ると、今まで当たり前にしていたことがなぜできないのか疑問を感じられるのだと思います。目の前の食べ物を食べないでいることは不自然に思えるのでしょうが、食べるという行為は目の前の物が食べるものであること、それを自分が食べるのだということが理解できないとできませんし、どのように食べるのかがわからないと実際は食べることができません。生活の中では当たり前に意識することもなく自然にしていることであっても急に食べ物が目の前に出されても、認知症の人にとっては時間の流れや生活のリズムがわかりにくくなっていますので理解できない状態です。自分の世界はありますが、全体の流れに沿って行動することは難しいのです。食事をするということが理解できるような周りの雰囲気や状況が必要です。たとえば、デイ・サービスのようにそばにいる人も一緒に食べることがわかれば、同じ行為が自然にできると思います。一端家事をやめて、一緒にお母様と向き合って話をしながら食事をしてはいかがでしょうか。

 健康を維持するために食事をすることは大切なことですが、それよりも楽しく美味しく、気持ちの充足や充実感が優先することで、安心や安らぎが感じられることが家で暮らすことの重要な役割だと思います。お母様を大切にするあまり先回りしていろいろと手を貸したり、言葉をかけたりしてしまいがちですが、食事の時はゆっくりと少々のことには目をつぶってお母様の行動を見守り、心に栄養をつけてから食べるようにしましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学