認知症110番

注文した料理を忘れる母

 80歳の母は次男夫婦と同居しています。私(長女・54歳)は車で20分の所に住んでいます。母は数年前から忘れることが多くなってきましたが、在宅サービスを利用しながら生活しています。先日いつものようにレストランに行きました。私が頼んだものが先に来たら「それは私が頼んだものよ」と大きな声で言い、それを自分の前に引き寄せ食べ始めました。えっと思いましたが、顔色も変えず食べていました。その姿を見て、切なさと不安でいっぱいになりました。(福島県、長女、54歳)

【回答】観察する機会にしては

 あなたの気持ちとてもよくわかります。時間をつくり訪問し、お母様が喜びそうなレストランを選び、少しでも楽しい時間になってほしいと思ってお連れしたのに、想定外のことが起こってしまったのですね。これまでは、それぞれが頼んだものがわかり、何事もなく楽しい時間が過ぎていったのに、今回は、自分が頼んだものがわからなくなってしまったのでしょう。確かに周りに人もいるし目の前で、運ばれてきたものを大きな声で引き寄せる姿は驚きとともに、わからなくなってしまったお母様を確認する辛さと認知症が進んでしまったのではないかという不安がぐるぐる頭の中で渦を巻いて、言葉が出ないばかりか、何とも言えない切なさが湧き起こってきたと思います。

 これだけで、認知症が進んだとは言い切れませんが、認知症は進行する病気でもあります。そのあたりを理解しつつ、プライドを傷つけないように配慮することを重視しましょう。例えば、レストランのメニューはたくさんあって選ぶのに迷います。専門店ですと少し選びやすいか、あるいは同じメニューを注文する。また、メニュー表を置いておき、運ばれてきた時にメニュー表と比べて確認するなどしてはいかがでしょうか。

 このようなことがあると、外出に対して不安が伴い消極的になってしまいがちですが、それよりも外の空気や社会と触れ合うことで緊張したり良い刺激になったりする機会でもあるので、気にせず積極的に外に連れ出しましょう。外に出たときの様子を観察し、どこが理解しにくくなったのか、どのようなことが行動に不都合かなど観察する機会にしましょう。歩き方や歩く速度、段差などへの注意、階段の昇降、手すりの活用、一人で歩くか、手をつなぐ、手を離した場合の表情、トイレの使用やトイレに行きたいことを自分で言えるか、トイレへは一人でいけるか、食べたいものを選ぶことができるかなど観察できることがたくさんあります。外出の機会に前回との違いも観察し、どのように配慮するとお母様らしい穏やかな生活が続けられるか考えるチャンスにしましょう。

 時には、思いもよらないことが起こるかもしれませんが、お母様のプライドを守ることを優先に知恵を絞ってください。いろいろな体験をし、時間を共有できることに喜びを感じましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学