認知症110番

「家に帰る」を繰り返す義母

 92歳の義母と同居して半年。義母は義父が他界(20年前)してからひとり暮らしで、私(長男の妻、72歳)は毎月1回訪問していました。認知症があり在宅サービスを利用していましたが次第に訪問が増え、自宅に来てもらい一緒に住みました。「家に帰る」と強く言うため、夫(70歳)の定年退職と同時に郷里に帰りました。一緒に住んでみると認知症がかなり進んでいて、「家に帰る、家に帰る」と荷物を持って日に何度も外に出ていきます。夫婦二人ともへとへとです。(富山県、長男の妻、72歳)

【回答】言葉手掛かりに心に近づく

 お義母様の介護のため、ご夫婦で郷里に帰り同居され、日々の生活を共にする中で「家に帰ります」と荷物を持って家を出ようとする姿は、お二人にとって口では言えないほど辛い気持ちになられ心身の疲労を感じておられることだと思います。お義母様の家なのに、なぜ「家に帰る」と言うのか、認知症のためとわかっているものの理解に苦しみ、それでもその都度、知恵を働かせて説得などでその場をしのいでは悩んでいるのでしょうね。

 お義母様の「家に帰りたい」という言葉を少し考えてみましょう。なぜ「家に帰りたいのか」を聞いてみましょう。「子どもが待っている」「お母さんが待っている」「仕事がある」など理由があります。いろいろ聞いていると、足掛かりになる「子ども、お母さん、仕事」などキーワードがあります。それを手がかりに話をしていくと、お義母様の心に近づけると思います。昔の思い出の中に入っていくと思いますが、話を聞く機会としての対話と捉えて、聞き役に回り、「そうなの、それで」と話の中に入っていくと、過去の生活を知ることもできます。答えを出すのではなく一緒に困ったり迷ったりして、気持ちを受け取りましょう。

 今の場所から違う所に行きたいのはどんなときなのか、お義母様が望む状態とギャップがあって、なんとなく落ち着かないのではないでしょうか。生活のリズム、危険でないように見守りや声かけ、何もやることがない状態など、いろいろ心配りをしておられると思いますが、逆にお義母様の今までのペースとは異なって、なんとなく違和感があることも考えられます。安心して暮らせるようにと考えての同居ですし、一緒に暮らしていること自体は安心で満たされていると思います。それでも心はいろいろと揺れ動くのです。

 どんなに配慮しても「家に帰りたい」と言うでしょう。またかと悩むでしょうが、介護する、お世話するということは、お義母様が安心して暮らせるためのお手伝いです。それぞれ価値観の違う人が暮らしているのです。認知症の方は自分の気持ちを言葉でうまく表現することが難しいのも特徴です。「家に帰りたい」という言葉を額面通りに受け取るのではなく、一緒に試行錯誤するプロセスが大切です。繰り返してもうまくいかないことも多いかもしれませんが、関係性は強くなっていくと思います。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学