認知症110番

「看取りの場」で意見が分かれて

 96歳の認知症の母(要介護5)は10年前に介護が必要になり特別養護老人ホームに入所しました。1カ月前に医師から「そろそろ看取りについて考えてください」と言われました。子ども4人は全員女性で常勤だったので交代で介護していましたが、限界を感じ施設に入れました。今は全員仕事をリタイアしたので私は家で介護しようと思うのですが、姉妹で意見が分かれています。「これまで親切にしてもらっていたのに退所は悪いのでは」「最後は自宅で」と。今は母の意見を聞くことはできません。(3女、69歳)

【回答】姉妹で悔いなく話し合って

 お母様は認知症で常時介護が必要、一方で姉妹はみな家事や仕事を抱え、協力し合いながら乗り越えてこられたのですね。特養で穏やかに暮らせていることは、お母様にとってはいい環境ですし、姉妹にとっては家庭を守り仕事ができる、双方にとっていい選択だったと思います。人の命には限りがあります。今その時期が近づき悩んでおられるのですね。

 特養ホームでの適切な介護の下でお母様がお母様らしく長年暮らしてきたことは、姉妹にとって感謝の気持ちでいっぱいだし、安定した環境の中で最期を迎えさせてあげたい。馴染みの人たちに囲まれて過ごすことはお母様にとって安住の場ではないか−−そんな思いと、今は時間のゆとりができ、自宅で姉妹たちに囲まれて最期を過ごすことができる。10年間の間に環境は変わったのだから−−という思いと。どちらもお母様を考えてのことだと思います。

 コロナ禍のなか、特養の多くは面会が自由にできない状況が続いています。それでもいろいろ工夫しています。特に看取りの場合は頻回の面会や、面会者が居室に長時間いられるようにするなど様々な工夫がされています。家族の意見を聞きながら一緒に最期を迎えられるように配慮しているようです。

 自宅であれば家族全員が24時間そばについてお世話することができます。医師の往診も必要ですが在宅サービスを利用すれば看取りは可能です。いつでもそばにいて話しかけたり体をさすったり、姉妹として安心しながら過ごすことができます。

 認知症に伴う介護は必要でなくなり、人生の最期をお母様らしく迎え、姉妹は家族として、親子としてどのように支援していきたいのか、気持ちをさらけ出し悔いがないように話し会いましょう。限られた時間の中で決めることは難しいでしょうし、後日、ああすればよかったと思うことが出てくるかも知れませんが、それはお互い様にしましょう。

 協力し合いながら、それぞれの考え方を尊重し、姉妹であったことに感謝して次のステップに、そして「認知症のお母様」ではなく、お母様が認知症という病気になったということなど、お母様の介護を通して自分たちの今後を考える機会にしましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学