認知症110番

父が母の認知症を理解しません

 73歳の父は、母(73歳、要介護1)と2人暮らしです。母は認知症で3カ月前には介護認定を受け、デイサービスを利用しています。ところが頑固な父は母の認知症を理解できず、指示しながら家事をやらせて自分は何もしません。認知症なのだから今までのようにはできないといくら言っても理解せず、母は父の怒鳴り声にビクビクしています。長女の私は近くに住んでいるので毎日のように訪問し、時には母を自宅に泊めています。父に認知症のことを理解してほしいのですが聞く耳を持ちません。(長女、42歳)

【回答】「認めたくない」受け止めて

 お父様は元気で家のことを滞りなくしていたお母様のイメージが強く、家事ができなくなるということはあり得ない、今までと生活自体は変わっていないのになぜできないのか理解に苦しんでおられるのではないでしょうか。認知症については多く取り上げられ、情報として知ってはいるものの、身近なお母様が当事者だということは想定外なのでしょう。

 いくら娘のあなたが言っても認知症の理解と、目の前のお母様がそうなのだということは結び付かないのだと思います。長年一緒に暮らしていると少しの変化には気づきにくく、認めたくない気持ちもあるのではないでしょうか。指示をしても思うようにできないお母様を見てイライラする気持ちが先行するのかもしれません。

 お父様が認知症を受け入れるには時間が必要です。お母様の日ごろの行動を見て、あなたが丁寧に説明して徐々に理解を深めてもらわなくてはいけません。テレビやユーチューブなど身近なものを一緒に見て、お母様の行動と結び付けて説明するのも方法の一つだと思います。焦らずに時間をかけましょう。頭で理解できても認めたくはない、というお父様の気持ちを受け入れながら様子を見ましょう。

 認知症関連の本もたくさんあります。分かりやすいものを選んで一緒に読みながら、お母様への対応方法を話し合ってください。面はゆいでしょうが、穏やかに対応できた時は「お父様の対応がいいとお母様も穏やかになる」ことを実感してもらいながら様子を見ていきましょう。いつもうまくできるとは限りませんが、納得するまで気長に付き合い、たまには3人で外出しお茶でもして穏やかな時間を過ごすのもよいと思います。

 市や区の広報などにも認知症に関する講習会等の催しが掲載されています。気軽に参加して認知症を理解する機会をつくり、お父様が自然に受け入れられるように試みてはいかがでしょうか。それでもなかなか納得いかなくて声を荒らげることがあると思いますが、お父様の理解したくない気持ちと思って受け止めましょう。

 一般的に認知症を受け入れられるようになるまでには㈰そんなはずがないと否定㈪追いつめられ混乱㈫なるようにしかならないと適応㈬いとおしさが増してきて理解、受容することで穏やかな生活ができる−−という段階があります。お父様が受け止められるように支援しましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学