認知症110番

夫に指示をし過ぎたか、と後悔

 86歳の夫(要介護3)と私(妻、85歳)の2人暮らしです。夫は数年前から認知症でトイレや着衣ができず、日常生活のほとんどに声をかけて手を貸す状態です。もともと口数は少なく物静かで、私が指示をする方でした。デイサービスを利用していますが、私は腰痛や膝痛などで夫の介護ができずグループホームなどへの入所を考えています。今まで私があれこれ指示してきたことが原因で認知症になってしまったのではと後悔しています。もっと夫の考えを聞いていればよかったのではと思ってしまいます。(妻、85歳)

【回答】過去の不安消し、自分らしく

 あなたが家庭を守り子育てをしていたから、夫は安心して働けたのだと思います。人はそれぞれ性格があり、価値観も違います。あなたがリーダーシップをとることで家庭が明るく円満だったから夫は生活全体に口を出さなかったのではないでしょうか。物静かな夫はあなたがいろいろ言ってくださるので、自分からあえて言わなくても済んでいた、だから安定して自分らしく過ごせてきたのだと思います。

 家庭を築く長い道のりにはそれぞれ不満や喜びも多々あるのが常です。その間、共に過ごしてきて今があり、たまたま途中で認知症という病気になったのだと思います。夫はあなたの適切な指示と介護で生活ができていますが、あなたは体調がすぐれず介護を続けることが難しくなり、今後のことが不安になって過去のことを悔いているのではと思います。

 個人差はあっても誰もが加齢とともに体力が低下し、生活に不自由さが出てきます。あなたがリーダーシップをとらずにいたら夫は認知症にならなかったとの保証はありません。立証しようのない過去を思い煩うより、共に過ごしてきた思い出豊かな過去を時々振り返り、当時の写真などを見ながら話題にしてはいかがでしょうか。忘れていた何かを思い出すきっかけになるかもしれません。

 決してあなたが指示してきたことが悪かったのではありません。それより、いろいろなことがあってもよく乗り越えてきたことを再認識しましょう。そして夫とともに暮らしを培ってきたからこそ今があることに感謝しましょう。

 ただ現在、夫は認知症で理解に支障があり生活に手間がかかること、あなたは体調から思うように介護ができないことを考えると、あなたが無理をして現状を維持しようとすれば共倒れになりかねません。夫がグループホームなどに移れば異なる生活環境にはなりますが、お互い自分に適した環境の下で時々会うような生活を続けられることが最善だと思います。

 くれぐれもあなたの関わり方が原因で認知症になったのではという不安は持たないでください。現状を受け入れつつ楽しめる方法を模索し、充実した日々を過ごしましょう。今まで夫の介護でできなかった趣味や楽しみを見つけて新たな自分を再発見してください。一度きりの人生です、自分らしく過ごしましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学