認知症110番

几帳面だった友人との落差にあ然

 75歳の友人(前の職場の同僚、お互い独身)と長年仲良くしていましたが、先日その友人より「あなたが帰ってからお金が無くなっていたことに気づいた。知らないか」とメールが来ました。「知らない」と返信しつつ気になって訪問するとそのことは忘れていて、今度は「大家さんからアパートの更新を断られ困った」と言います。大家さんに聞くと「最近物忘れが多く火事でも出されたら困るので」とのことでした。キッチンを見ると焦げた鍋やフライパン、器が散乱し、今までの几帳面(きちょうめん)さとは程遠く唖然としました。ただ見放すこともできず、不安が増すばかりです。(友人、75歳)

【回答】大切にしたいことをメモに

 親しい友人からメールで突然疑いをかけられ、ショックどころか頭が真っ白になり、返す言葉も見つからなかったと思います。気を取り直して訪問すると、メールしたことも覚えていない、それどころか住まいの契約更新ができないという話に関して大家さんから事情を聴いてまた驚き、さらにキッチンの状態を見て大家さんの心配の理由、メールの件も理解しつつ、几帳面だったころの友人との落差になかなか納得がいかず、またこれから先、どう対応すればよいか戸惑われたと思います。

 友人は徐々に物忘れが進んでいたのでしょう。しかし親しいあなたと一緒の時は気持ちも安らいでいたでしょうし、少々のミスは許容範囲として受け入れていたので気づかなかったのでしょう。日常生活はいつも通りできているように見えても、ミスが重なって、大家さんが傍から見ても少し危険かな、と思える様子がうかがえたのではないでしょうか。

 今後、あなたはご自身の予習の意味も込めこれから先のことを一緒に考えていくとよいと思います。後日振り返る際に役に立つよう、メモを取りながら進めていきましょう。まず、住んでいる地域の高齢者福祉サービス、民生委員、地域包括支援センター、高齢者の活動を支えている団体、もの忘れ外来などを探し、連絡を入れて相談してみましょう。さらに福祉施設や在宅サービスなどの見学もしてみましょう。

 さまざまなサービスがあり、それぞれに特色があります。丁寧に情報を集め、費用なども確認し、見学して実際の雰囲気を味わい、友人に合いそうかを確かめ、分からないことは小さなことでも聞きましょう。情報を集めたら、気になる点はないか、それを利用するとどのような生活ができるのか想定してみましょう。

 大切なのはその人がどのように暮らしたいかですが、自分のことですら具体的なイメージをつかめず、健康状態や経済面などを見通すことも思っている以上に難しいものです。それでも現状で大切にしたいこと、これだけは守りたいことをメモし、気づいたときに追加していくとその人らしさが形になってくると思います。友人の現状を受け入れつつ意思を尊重しながら模索し、抱え込まないで周りに相談しましょう。

回答者 是枝祥子(これえださちこ)
大妻女子大名誉教授=介護福祉学