読んでみた

ぼけますから、よろしくお願いします。

信友直子著/本体1364円+税/新潮社

 著者は東京で働くフリーのテレビディレクター。実家の広島県呉市に通いながら父母の日常を撮ってテレビ番組を作り、そして同名のドキュメンタリー映画を作った。そうした撮影のいきさつや裏話、娘としての気持ちをつづった本。

 タイトルは、認知症になった80代の母がカメラの前で話した言葉から。母を介護する90代の父はかなり耳が遠く会話は大変だ。父はいつも独り静かに新聞を読み、記事を切り抜いている。どんな妻の要求にも優しく応え、怒ることはない。夫婦でひきこもる生活を見かねた著者はデイサービスやヘルパーを頼もうとするが、最初は夫婦の猛反対を食らう。しかし、二人は徐々に受け入れ、楽しむようになっていく。

 妻(母)の介護を通じて現れるのは夫妻と一人娘が築いてきた家族の物語である。長年連れ添い深い絆でつながる二人には、娘さえ入り込めない部分があることが分かってくる。著者は「お母さん子」で、父親と距離を感じていたというが、未知だった父親の姿と出会い大好きになる。認知症になっても、こんな家族なら幸せだろうな、と思わせてくれる。映画と同様に広島弁(呉弁)が心地よく響いてきた。