読んでみた

在宅介護 止められなかった虐待

藤野絢著/あっぷる出版社/1650円(税込み)

 バリバリのキャリアウーマンだった著者は45歳で仕事を辞め、以降、先天性脳性麻痺(まひ)で重度障がい者の兄、 滂(ゆたか)さんを25年にわたって介護した。「愛して愛して愛し尽くした」はずの兄。しかし滂さんの死後、繰り返し虐待していた事実を心の中で封印していたことに気づき、すべてを吐露してしまおうと決意した。

 長期の介護を振り返り、当初は責任を全うしたと思っていた。だが、やがて愛情の裏にあった自身の行為に愕然(がくぜん)とする。感情が先走り、不安から助けを求めて渾身(こんしん)の力で引っ張る兄をたたき、足蹴りにした。兄から笑顔が消え、自身を悪魔だと自覚しても凶暴はやめられなかった。

 兄の死から10年近くたった今も遺影に「赦(ゆる)して」と言えず、わびるしかないという。なのに日々滂さんが守ってくれていることを感じ、一層胸が苦しくなる。

 著者の大伯父は俳人の正岡子規。その妹、律による子規への礼節を踏まえた介護、看病を後に知り、本著の執筆を決心したという。