読んでみた

老いの正体 認知症と友だち

森村誠一著/KADOKAWA/税込み1210円

 多作で知られる作家、森村誠一さんは現在89歳。1年前、老人性うつ病の闘病を記録した『老いる意味』(中公新書ラクレ)で話題を呼んだ。こんどは認知症との付き合いが始まり、めげずに楽しむ方法を語っている。

 例えば「やることがある日の朝の目覚めはいい」という。その日、何をするか、今週何をやりとげるか、ちょっとした計画を立てておく。図書館に本を借りに行く。午後それを読む。そんなことでも目覚めがよくなるのだそうだ。

 老人性うつ病を発症したのは「あまりにも多忙だったことで心の安定を失ったから」と反省している。80歳をすぎて、原稿はもちろん、講演やテレビ、ラジオの出演がたてこみ、のんびり散歩することもできなくなっていたという。ふつうの人なら「時間的な空白」と「孤独感」が「うつ」の原因になりやすいというが、その逆だった。ということで、ゆっくり、のんびりということを養生法としている。とはいえ、若い頃からの旺盛な好奇心は衰えず、ほどよいバランスを保つことができているようだ。

 「人生後編」(退職後)に必要な五箇条は。一、健康であること。二、多少の経済力。三、生きがいを持つ。四、仲間がいる。五、身だしなみを忘れない。一と二はすでに無理という人もいるかもしれないが、幸せな老後のために努力してみる価値はありそうだ。