読んでみた

認知症パンデミック

飯塚友道著/ちくま新書/税込み946円

 コロナ禍で高齢者の外出や社会交流が減ると、認知症の発症や進行がしやすくなってしまう。感染対策をしつつもいろいろ努力をしなければ……。多くの専門家が共通して指摘することだ。本書はまさにそんな導入で始まってはいるが、その本領は、そこから角度を変えてコロナウイルスが直接脳に及ぼす影響を最新の研究をひきながら紹介している点である。

 例えば最近話題になっているのが「脳の霧」と呼ばれる後遺症。長期間継続する軽度の認知機能障害である。米国の研究ではコロナ感染後にすべての年齢層で記憶障害が見られ、7ヶ月を経ても51%の人に障害が残っていたという。臭覚神経から始まったウイルスの感染が、それにつながる大脳辺縁系という大脳深くの部位に到達し、さらには前頭葉などの大脳皮質に感染が拡散していったと考えられるのだそうだ。

 アルツハイマー病の患者にとっての危険も指摘されている。「新型コロナウイルスに感染しやすく、さらには脳のダメージを起こしやすく、認知症のさらなる進行につながる可能性が高くなる」などを指摘する報告があるという。

 著者は長年、認知症の画像診断や地域での対策に関わってきた臨床医。認知症にならないため、進行を遅らせるための工夫も随所に紹介されている。