読んでみた

認知症の人との絆−−支援の空白をなくすために

藤本直規著/ワールドプランニング/税込み2860円

 著者は滋賀県守山市でもの忘れクリニックを開設している医師。治療のみならず若年・軽度認知症の人が仲間と助け合いながら社会参加をめざす自主的なデイサービス「もの忘れカフェ」を運営し、2011年には若年性認知症の人を対象に企業から請け負ったおもちゃの部品作りを手がける「仕事の場」を設けている。

 「まだ働いて社会に役立ちたい」という若年性認知症の人の思いを受け止め、仕事を続けられるよう当事者の勤務先まで足を運び上司らと談判することまでしてきた。また病状が進み、勤務先を辞めざるを得なくなった人たちのために「仕事の場」を作った。わずかな給料とはいえ、自ら稼いでいることが自信につながる。著書ではこうした取り組みを紹介しつつ、もの忘れクリニックが果たすべき役割について触れている。

 認知症と診断されても何が変わるわけでもない、認知機能などに問題があると気づいているのに率直に話し合うことができないことこそ、本人・家族にとって最大の不幸−−。そうした思いに貫かれた一冊だ。