読んでみた

認知症700万人時代—ともに生きる社会へ

鈴木雅人、松村和彦著/かもがわ出版/税込み2200円

 62歳だった森重夫さんは家を出て行方不明となり、竹やぶで白骨化して見つかった。認知症の人の外出は「徘徊(はいかい)」と言われ、「目的なく」というニュアンスが含まれる。が、決してそんなことはない。竹やぶは重夫さんが妻の糸子さんと結婚し暮らし始めたアパートの近く。糸子さんは重夫さんが、家に帰ろうとしたと思っている。

 介護福祉士の増本敬子さんは、介護をする家族から「優しい言葉なんて掛けられない」「愛情が報われない」と言われる。でも「認知症にだけはなりたくない」との会話が家族や地域でされていたら、本人は孤立し、家族も打ち明けられなくなる。「誰でもなって当たり前。こう受け入れることができたら、身近な人の変化にも寛容になれるんじゃないかな」

 京都新聞記者による連載記事を再構成した。認知症を病ではなく人が抱える症状ととらえた。認知症予防への関心は高い。が、「自分はなりたくない」という偏見からだと考え、予防や治療は一切取材対象から外した。本人や家族の苦しさを伝え、なった時への備えを提起する手もあった。しかし、認知症の人の話を聞くうち、「時代にそぐわない」と感じたという。多くの人が苦しさを乗り越え、「誰もが安心して暮らせる社会」の実現を見据えていたからだ。