読んでみた

アルツハイマー病研究、失敗の構造

カール・へラップ著、梶山あゆみ訳/みすず書房/税込み3520円

 アルツハイマー型認知症(AD)研究に関し、米国の神経生物学者である著者が「アミロイドカスケード仮説」(有害たんぱくアミロイドβ=Aβ=が脳に沈着し発症するとの説)一択である現状に異を唱える。

 同仮説はマウスでの実験奏功が発端だ。ただ、人間でみるとAβが多く蓄積されているのに発症しない人もいれば、逆の人もいる。にもかかわらず米国立老化研究所などが「Aβの蓄積がなければADではない」などと定義を拡大してきたことを批判。ADの定義を「顕微鏡で覗(のぞ)いた脳の姿」から切り離し、症状のパターンに基づかせることを強く訴えている。

 また同仮説に基づく新薬「レカネマブ」についても、治験データを「科学よりマーケティングの色合いが濃い」と断じ、にせ薬との差も「生物学的にはほとんど実質のない差」と指摘している。

 著者も同仮説を全否定はせず、Aβも含めて複合的に研究する必要性を説いている。老化した神経細胞が周囲に炎症を引き起こすと見ており、「老化」を認知症研究の根幹に位置づけるよう主張する。