読んでみた

気がつけば認知症介護の沼にいた。

畑江ちか子著/古書みつけ/税込み1650円

 事務職をしていた著者は、祖父を看取ってくれた介護職の人たちへの「恩返し」の思いで介護業界に飛び込み、グループホームで働き始めた。「向いていない」という仕事のつらさに転身を後悔し、それでも入居者に全力で向き合う日々をつづった記録である。

 入職初日、女性入所者から紙包みを贈られた。まんじゅうかと思いきや、ウンチだった。その後も食事介助の最中に口の中の食べ物を顔に吹き付けられた。初めての看取りでは、亡くなった人の服の着せ替えに戸惑い、介護で支えていた時とは違う遺体の重さに驚いた。

 時は流れ、慌ただしさにもまれるうちに引っ込み思案だった性格も変わり、不適切な介護をする先輩を注意できるようになった。自分の主張をしないと思わぬ方向に流され、よいケアにつながらない。そしていつしか「人生のラストステージを任される仕事」と思えるようになっていく。

 記される入居者への不平不満も、著者の心根の優しさと仕事への愚直さでほんわかした笑いと涙に変わる。ゲームのキャラクターへの「推し活」で、削られる心のバランスを取っているという。