読んでみた

私はぼけて幸せ

下山 敦士著、1600+税(丸善)

 人間、歳をとれば、誰だって多少なりともぼけてくる。そうは思っても、「自分だけはぼけたくない」と思うのが人情というものだろう。認知症になって自分の居場所が分からなくなったらどうしよう、徘徊などで家族に迷惑をかけたくない…。こうした思いがあるからこそ、ぼけを悲観的にとらえるのだろう。しかし、長生きをすれば、ぼけるのは自然なこと。大事なのは、ぼけとどう折り合っていくかだ。一方、歳をとることの良さもある。「忘れる能力」もその一つ。若いころは、取るに足らないことを、くよくよ考えたが、歳を重ねれば、そんなことは数日もたてば、すっかり忘れてしまう。著者は、岡山市でクリニック院長を務める66歳の精神科医。「少々ぼけた」と本人は言うが、本書には「ぼけても人生まんざらでもないよ」とのメッセージが込められている。ぼけを恐れる中高年への人間賛歌だ。

2008年 財団報「新時代 New Way of Life」より