読んでみた

「仕舞」としての呆けー認知症の人から学んだことば

石橋 典子著、1600円+税(中央法規出版)

 「そろそろ、お仕舞にしよう」という言葉を私たちは、よく使う。この「仕舞」という言葉が能楽にある。能の略式の舞で、シテ(主役)が一人で面や装束もつけずに紋服・袴姿で地謡だけで舞うものだ。認知症のお年寄りの生きる舞台がまさに「仕舞」に似ているという。長年生き続けてきた人たちに与えられる人生仕上げの晴れ舞台でもある。著者は、島根県出雲市のデイケア施設で認知症を患う方々のケアに従事してきた。認知症を患うことで不安や焦燥感にかられ、心を病んでいく認知症高齢者。徘徊、妄想などの問題行動は、本人の置かれた環境への「不適応症状」と捉え、著者はそのつぶやきに耳を傾けながら手探りでケアを続けてきた。認知症高齢者にどう向き合い、精神の安定を図っていくか。本書は、ケアの本質である、人と人が関わるとはどういうことかを考えさせてくれる。

2008年 財団報「新時代 New Way of Life」より