読んでみた

挫折する力 新藤兼人かく語りき

中川洋吉編著/2000円+税/新潮社

 現在、99歳の新藤兼人監督に04年、著者がインタビューしたものを、その後の情報と解説を加えて構成した本。

 乙羽信子ら3人の妻との思い出や溝口健二、黒沢明、小津安二郎監督ら巨匠たちのエピソードを交えた評伝も、日本映画史を紐解くように読めて興味深いが、独立プロの近代映画協会を運営し、何度も挫折してきた体験に裏付けられた話は、第一級の「老人論」として貴重である。

 「老いをマイナスには考えないで、若かった頃より豊かな観察が出来るんじゃないか」「挫折感がありますと、マンネリになんかなってられないんです」。こう語る新藤監督の率直な老人観は前向きだ。亡くなった杉村春子の老いてからの演技に感心する観察眼も鋭い。

2011年6月 財団報「新時代 New Way of Life」68号より