読んでみた

認知症の人々が創造する世界

阿保順子著/860円+税/岩波書店

 介護職の著者は、あとがきで認知症の人は「知が侵されているのではなく、新しい知が創られている」とし「痴呆」という言葉がまったくあたらないと指摘する。

 実際、この本の中で紹介される認知症専門病棟の患者さんたちは、外から見れば虚構の夫婦に納まっていたり、言葉は交わさなくても信頼のおける友人同士だったりという関係を作り上げている。そんな彼らを間近で観察しながら、著者は「認知症の人々は、これまでとは別な世界を創造しながら、そこでもう一度自由にifの物語を生きているのかもしれない」と肯定的に見守る。たとえそれが介護している家族にとってショックなことではあってもである。本書は04年刊行の「痴呆老人が創造する世界」をもとにしている。文庫化される意味をこう語る。「認知症になってもなお、人として尊厳に満ちた生を生きられることを伝えなくてはならない」からと。

2011年 財団報「新時代 New Way of Life」より