コラム「母を撮る」

我が朋友

関口祐加 映画監督

山田トシ子さん(中央)を囲み筆者とその息子の先人さん 2014 NY GALS FILMS

 ドキュメンタリー映画の素晴らしさは、ひと言で言えば「出会い」にあるといっても過言ではありません。私が、考えてもいなかったような人との出会いが、あるものです。この当認知症予防財団を通じて出会った順天堂大学大学院の新井平伊教授もそうでした。新井先生との関係は、その後もずっと続き、「毎アル」シリーズにご出演して頂いただけでなく「毎アル2」、そして次の「毎アルFINAL」でも医学監修をお願いしています。

 さて、今回も思いがけない出会いがありました。私の股関節全置換手術を受けた大学病院の整形外科病棟で、同じ病室の向かい側のベッドに入院していた山田トシ子さん(83歳)です。年は親子ほど離れていても、すぐに意気投合してしまいました! 山田さんのユーモアのセンスとストーリーテラーとしてのバツグンの面白さに惹(ひ)かれたのです。お互いに闘病生活を支え合い、励まし合う。整形外科の入院は、リハビリがあるため一般的に3〜4週間と長いので尚更(なおさら)です。

 仲良くなるにつれて山田さんの出自を聞いてみました。山田さんは、福島県出身ですが、戦前にご家族でサイパンに渡り、サトウキビ農園を経営。敗戦後は命からがら引き揚げてきたということでした。7歳ぐらいまでは、英語が話せたと教えてくれました。

 そんな山田さんは、太腿(ふともも)の裏に突如出来たがん性腫瘍の手術のため入院していましたが、予後があまりよくなく、がんは肺に転移した段階で放射線治療を諦め、今年の1月に退院となったのです。昨年12月に帰国していた息子と一緒に私の1カ月検診の時に病室に見舞った際には、まだまだ、お元気で息子にも少し早いお年玉をくれました。「サキちゃん(息子の名前は先人)のお母さんのことが大好きだから、サキちゃんのことも好きなんだよ」と言いながら。

 そんな息子は私に鋭く聞いてきました。「母ちゃんは、山田さんのような人が自分の母親だったらよかったって本当は、思っているんじゃないの」。ぐうの音も出ませんよね……^^; 山田さんは、2月に入ってから自宅療養中に脳梗塞を引き起こし、今は、ターミナルケア専門の緩和病院に入院しています。先日、そんな山田さんを見舞い、泣きながら再会を喜び合いました。

 実は、山田さんは「毎アルFINAL」に登場します。認知症になってもならなくても、人生の最終章を家族に囲まれ、尊厳を保ちながら生き抜く素晴らしいお手本だと思うからです。また、どんなに困難な状況になってもユーモアを忘れない。山田さんを尊敬し、私もかくありたいと思っています。

 ところで、ターミナルケアの医療スタッフは、素晴らしいですね! ふと認知症ケアには、こういう医療スタッフこそ向いているのではと考えてしまいました。それは、治療ではなくケアに重点を置き、それ故に清々(すがすが)しく明るいスタッフが多いからです。つい、どこに行っても認知症のことを考えてしまいますね。

2015年6月