コラム「母をみとる」

続・毎日がアルツハイマー総集編製作

口紅の気分

 前回に続き「毎アル」総集編製作の話ですが、母の認知症ケアにおけるパーソン・センタード・ケアについて書いてみたいと思います。

 この短編映画は、10年間にわたった母の認知症ケアをパーソン・センタード・ケアの観点から紐解(ひもと)く短編映画であることは、書きました。私なりにパーソン・センタード・ケアを掘り下げ、映像でまとめたい。そんなアイデアから出発する映画です。

 さて、少しそれますが、記憶に残ったテレビ番組があります。関西のとあるコミュニティー(?)が認知症のおばあさんの介護を複数の人たちでするという番組でした。そのおばあさんは、独居だったか、家族と同居だったかは、ちょっと覚えていません。なによりも介護を血縁者だけでしないのは、素晴らしいなあと思ったことは、鮮明に覚えています。ただ、決して喋(しゃべ)らないおばあさんの険しい表情が、とても気になったことも覚えています。そして、見続けるうちに度肝を抜かれました。

 折り畳み式簡易介護ベッドを持参して、おばあさんと一緒に沖縄へ行こうという展開になったのです! 代表の方が「認知症の人は、自分では外に出ることはできないから」というような発言をされていたかと思います。

 た、確かに・・・しかし、大騒ぎしながら行った沖縄を最も楽しんでいたのは、介護側の人たちだったような。強く印象に残ったのは、おばあさんの険しい表情が、そのままだったことでした。番組は、最後に一口食べ物を食べてこときれたおばあさんで終わりました。ここから学んだことが、あります。それは、介護において決して「自分語り」をしないということ。「自分語り」とは、自分の視点や価値観のみから行動し、介護をすることです。

 例えば、今回の母の写真ですが、パジャマ姿で口紅を塗っていますよね。介護者の私が① 「ちゃんと着替えてから口紅を塗って!」と言うとします。これは私の価値観の押し付け介護です。② 「キャー! 口紅ステキ。似合っているじゃん」と母を褒めます。ここで難しいのは、私は本当にそう思っていて褒めることが大切。口先だけでは、母はご機嫌ナナメになるかと思います。お世辞が大嫌いな人でしたからね。

 この②の方法や、考え方がパーソン・センタード・ケアなのです。しかも、母だけに特化したケアのあり方です。総論ではなく各論。介護する相手を知り尽くす努力が必要です。

 つまり、認知症の介護は、マニュアルに頼っているばかりでは、いい介護が出来ません。英国では、高度のスキルが必要であると言われている所以(ゆえん)ですよね!

2021年8月